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窓辺のこと|石田千

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四六判/並製本/カバー装/本文272頁
1,800円(本体価格・税別)
2019年12月刊
ISBN978-4-89629-372-2 C0095

◎50歳になった作家の2018年、暮らしに根づいている言葉を丁寧にすくい、文章に放つ。いいことも悲しいことも書く。人気作家の新境地をひらくエッセイ集。
◎2018年の1年間、「共同通信」に連載した作品を中心に、雑誌に発表したエッセイをまとめる。大好きなオムライスのこと、民謡をたずねる話、ポルトガルから大阪へめぐる旅など、圧巻は、年の瀬の「レルビー」という作品。「レルビー、レルビー」と一心に歌い、書く。その歌声がページから聞こえてくる。
◎「共同通信」連載時の画家・牧野伊三夫による挿絵をすべて収録。一部はカラー。本書装画も牧野伊三夫が手掛けた。

■本書より
「猫のめし碗」
一月吉日、猫のめし碗の、使い初め。
お茶碗は、米のとぎ水で煮てから使うのよ。
教えてくれたのは、おばあさんだった。しろ水が沸き、めし碗はかたかた鳴る。 じつは、十五年もまえから持っていた。
(中略)
たしかにめんこいけど、三十半ばの娘には、めんこすぎるんでないかの。こぶりのめし碗は、おかわりしちゃって、食べすぎそうだの。それでも、あんまりうれしそうにくれたから、ありがとう。もらって、東京にもどった。
いらい、十五年。あんまりうれしそうにくれたから、だれかに譲るのもしのびなく、台所の戸棚のおくにあった。たびたびの引越しでも、割れなかった。
昨年、喜寿をむかえた母は、風邪が長びいたり、ころんだりが増えた。
……いかがですか。
電話をすると、大丈夫でないときも、大丈夫というので、こまる。
娘も、いよいよ五十路となる。さすがに山盛りめしは食べられなくなった。使っていためし碗を重たく感じるようにもなり、そういえばとひっぱり出した。
おばあさんも、三毛猫ミッキーも、もういない。
十五年まえは、勝手気ままのやりたい放題。母にすれば、めんこい子どもだった。娘でいられる時間は、永遠ではない。いまはわかる。
猫のめし碗に、炊きたてのしろめし。
祖父母の写真に手をあわせ、いただきます。

(港の人商品ページより)

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