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open 12-19|水木定休
2 sat. - 4 mon. 出店|大阪β本町橋※元町店舗は休
5 tue. 臨時休業
6 wed. 営業/店内ライブ|細井徳太郎/山内弘太/千葉広樹
9 sat. 店内ライブ|藤井邦博/ゑでぃまぁこん
16 sat. 店内ライブ|畑下マユ/潮田雄一
29 fri. 店内イベント|姜アンリ朗読会
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RAUMORDNUNG|Michael Blaser
¥5,720
¥5,720 (tax incl.) softcover 96 pages 213 x 317 mm color limited edition of 500 copies 2018 スイス人フォトグラファー、マイケル・ブレイザー(Michel Blaser)の作品集。作者は見栄えのしないことや取るに足らないこと、見慣れたものや見過ごされがちなものに芸術的な関心を抱いてきた。首都ベルンに生まれ育った作者は、都市周辺の景観の特殊性を観察し、都市のアイデンティティと田舎町の性質、自然とスプロール現象、公の場と私的な空間との間を揺れ動く凡庸なスイスの一面を我々の目の前に突きつける。ランドスケープとも建築のイメージともとれる写真の中の人々の生活が積み重なって形成された風景は、私たちの社会をありのままに写し出している。
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衣巻省三作品集 街のスタイル
¥3,850
山本善行 撰 発行 国書刊行会 発売日 2024/01/23 判型 四六変型判 ISBN 978-4-336-07564-2 ページ数 432 頁 Cコード 0093 定価 3,850円 (本体価格3,500円) 衣巻省三は馬込村文士の一員として、盟友・稲垣足穂とともに幻想味のある作風が高く評価されたモダニズム作家・詩人。モダニズムの華やかなりし昭和初期にボン書店などから刊行された著書はいずれも稀覯本。戦後は容易に読むことができない状態が続き、これまで幻の作家とされてきた。 左川ちかや北園克衛などのモダニズム文学が読み継がれるなか、マイナーポエットの雄として古本通から注目が集まる。モダンな雰囲気のなかにも、清冽な叙情とある種の悪戯心に溢れた詩作品、幻想味からメタフィクションまで作風の広い中短篇など、現代の読者が読んでも不思議な輝きを感じさせる。 長篇小説「けしかけられた男」は第一回芥川賞の有力候補になり、足穂や左川のほかにも、これまで萩原朔太郎、伊藤整、川端康成などが高く評価してきた。意外なところでは名フォーク歌手の高田渡が詩「アイスクリーム」を取り上げている。 本書は古本ソムリエ・山本善行氏の撰による、令和の世に贈る90年ぶりのオリジナル作品集である。 著者紹介 衣巻省三 (キヌマキ・セイゾウ) (1900年-1978年)詩人・小説家。兵庫県に素封家の子弟として生まれる。中学時代に稲垣足穂と親友になり、二人で佐藤春夫に師事。早稲田大学中退後に詩人としてデビュー、伊藤整、左川ちか、北園克衛らと文学運動を展開。しだいに創作に移り、抒情小説/モダニズム/幻想文学など幅広い作風のもと清冽な魅力にあふれた作品群を発表。第一回芥川賞候補になった長篇『けしかけられた男』(1935-36年)はジッドばりのメタフィクションで、川端康成が評価するも受賞を逃す。 大正末から住んだ馬込文士村の邸宅には稲垣足穂が居候。近所の萩原朔太郎、室生犀星などと親しく交わり、朔太郎のエッセイにも描かれる。戦後は寡作となり、しみじみした味わいの随筆などを同人誌に発表した。 ◎生前の単行本(1928年~1937年) 小説『黄昏学校』(版画荘)、『パラピンの聖女』(金星堂)、詩集『こわれた街』(詩之家出版部)、『足風琴』(ボン書店) 山本善行 (ヤマモト・ヨシユキ) 大阪府生まれ。古書店「古書善行堂」店主、書物雑誌「sumus」編集人代表。 著書に『定本 古本泣き笑い日記』『関西赤貧古本道』など。 編書に『上林暁傑作小説集 孤独先生』『上林曉傑作小説集 星を撒いた街』『文と本と旅と 上林曉精選随筆集』「灯光舎 本のともしび」短編集シリーズ(寺田寅彦、田畑修一郎、中島敦、堀辰雄、内田百閒)など。 共著に『漱石全集を買った日』『新・文學入門』などがある。 目次 詩 「こわれた街」 「足風琴」 小説 「プリマドンナ」 「ポオの館」 「雨の街」 「落ちたスプウン」 「どこの町」 「キッドの靴」 「陋巷」 「街のスタイル」 「歪められた景色」 撰者あとがき
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ことば -僕自身の訓練のためのノート-|山口一郎
¥2,420
SOLD OUT
発行 青土社 定価2,420円(本体2,200円) 発売日2023年3月31日 ISBN978-4-7917-7381-7 サカナクションのメジャーデビュー前、自分自身のための訓練として書き綴られた詩のような短い言葉の断片たち。 「山口さんは言葉の波止場なのだと思う。やって来る言葉を受け止め、去っていく言葉を見送る。読み終えたあなたの中にはもう一冊の新しい本があり、あなた自身に読まれるのを待っていることに気づくでしょう。」——友部正人 [目次] 1 夜 2 自然 3 アンチテーゼ 4 惜春 5 あの子 6 音楽 [著者]山口一郎(やまぐち・いちろう) 1980年生まれ。北海道小樽市出身。2005年にサカナクション結成。2007年にアルバム「GO TO THE FUTURE」でメジャーデビュー。ほとんど全ての楽曲の作詞作曲を手がける。つねに時代の先端を歩む姿勢で、さまざまなシーンに大きな影響を与え続けている。
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情報哲学入門|北野圭介
¥1,980
講談社選書メチエ 発行:講談社 46 272ページ 定価 1,800円+税 ISBN978-4-06-534597-9 2024年1月15日 「生成AIブームの今こそ切望される知がここにある。」西垣 通(東京大学名誉教授) 「存在から情報へ――シン・哲学の姿に注目せよ!」山内志朗(慶應義塾大学名誉教授) 私たちは「情報」なしで暮らすことはできません。スマホでニュースを確認する、メールやラインをチェックする。改札を電子マネーの端末で通り抜け、車内では画面に映る広告や駅名を見る。そして会社に着けば……といったように、あらゆる場所に、無数の形で情報はあふれています。 では、そもそも情報とは何でしょうか? 一昔前のように言語をモデルに理解するのでは、医療現場での生体反応データから宇宙空間における周波数データまでをすべて「情報」として捉えることはできません。つまり、それが何かをよく理解していないまま私たちは情報なしではありえない生活を送るようになっているのです。 本書は、こうした現状の中で「情報という問い」に正面から取り組みます。カーツワイル、ボストロム、テグマークを通して技術との関係の中で「人間」とは何かを確認し、マカフィーとブリニョルフソン、ズボフを通して社会の中での情報がもつ機能を捉え、フクヤマ、ハラリ、サンデルを通して政治との関わりを考察します。その上で改めて「情報」というものを哲学的に規定し、情報をめぐる課題を整理します。 最先端の議論の見取り図を得られるばかりか、そこから得られる知見を整理し、日常にどう役立てるのかまで示してくれる本書は、これまでになかった1冊と断言できます。 [本書の内容] 序 章 情報という問い 第I部 情報がもたらす未来 第1章 情報と技術の未来 第2章 情報と経済の未来 第3章 情報と政治の未来 第II部 情報哲学の現在 第4章 情報の分析哲学 第5章 情報の基礎づけ 第6章 人工知能の身体性 第III部 情報の実践マニュアル 第7章 世界のセッティング 第8章 社会のセッティング 第9章 「人間」のセッティング 目次 はじめに 序 章 情報という問い 第I部 情報がもたらす未来 第1章 情報と技術の未来 一 カーツワイルのポスト・ヒューマン論 二 ニック・ボストロムのスーパーインテリジェンス論 三 マックス・テグマークの生命システム論 第2章 情報と経済の未来 一 マカフィーとブリニョルフソンによる第二のマシン・エイジ 二 ショシャナ・ズボフの監視資本主義 第3章 情報と政治の未来 一 フランシス・フクヤマと「テクノロジーの政治学」 二 マイケル・サンデルと「守るべき美徳」 三 ユヴァル・ノア・ハラリと「自由主義の擁護」 第II部 情報哲学の現在 第4章 情報の分析哲学 一 第一哲学としての情報哲学 二 機械情報の振る舞いを把捉するための情報概念の再定義 三 情報技術を再定義し、情報化された環境における生の条件を問う 四 知能(インテリジェンス)とは何かを再定義する 第5章 情報の基礎づけ 一 生命情報、社会情報、機械情報 二 情報とは何か――パターンのパターン 三 情報学が揺さぶる哲学的思考 四 情報論的転回は大文字のパラダイムチェンジか 五 シグナルの存在論、シンボルの存在論 第6章 人工知能の身体性 一 知能は実装されるのか、知能は生成するのか 二 ロボットのなかの「知能の誕生」(ピアジェ) 第III部 情報の実践マニュアル 第7章 世界のセッティング 一 交差する二つの世界理解図式 二 複数の世界像の乱立 三 「世界像の時代」の果て 第8章 社会のセッティング 一 「社会とはなにか」という問いを変容する技術 二 コミュニカビリティに関わるデジタル・メディア 三 行為の時代 第9章 「人間」のセッティング 一 自己表象の時代 二 自由意志のデザイン─世界は誰が設計するのか 三 「人間」の溶解、あるいは民主主義の溶解 注 文献一覧 あとがき 著者プロフィール 北野 圭介 (キタノ ケイスケ) (著/文) 1963年、大阪府生まれ。ニューヨーク大学大学院映画研究科博士課程中途退学。ニューヨーク大学教員、新潟大学助教授を経て、現在、立命館大学映像学部教授。専門は、映画・映像理論、メディア論。ロンドン大学ゴールドスミス校客員研究員(2012年9月-13年3月)、ラサール芸術大学客員研究員(2022年6月-11月)、ハーヴァード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所客員研究員(2023年11月-24年3月)。 主な著書に、『新版ハリウッド100年史講義』(平凡社新書)、『映像論序説』、『制御と社会』、『ポスト・アートセオリーズ』(以上、人文書院)ほか。 主な訳書に、デイヴィッド・ボードウェル+クリスティン・トンプソン『フィルム・アート』(共訳、名古屋大学出版会)、アレクサンダー・R・ギャロウェイ『プロトコル』(人文書院)ほか。
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書こうとするな、ただ書け -ブコウスキー書簡集-|チャールズ・ブコウスキー
¥3,520
SOLD OUT
中川五郎 訳 発行 青土社 定価3,520円(本体3,200円) 発売日2022年2月12日 ISBN978-4-7917-7444-9 わたしは作家になろうと必死で努力していたわけではなく、ただ自分がご機嫌になれることをやっていただけの話なのだ。 「自分がどうやってやってこれたのかよくわからない。酒にはいつも救われた。今もそうだ。それに、正直に言って、わたしは書くことが好きで好きでたまらなかった! タイプライターを打つ音。タイプライターがその音だけ立ててくれればいいと思うことがある。」(本文より) カルト的作家が知人に宛てた「書くこと」についての手紙。その赤裸々な言葉から伝説的作家の実像と思想に迫る、圧倒的な書簡集。
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ぼくの伯⽗さん|ジャン=クロード・カリエール 作/ピエール・エテックス 絵
¥1,870
訳:小柳帝 発行 アノニマ・スタジオ ISBN-13:978-4-87758-843-4 発売日:2022/12/14 定価 1870円(本体価格1700円) ジャック・タチ映画のノベライズ版が 特集上映「ピエール・エテックス レトロスペクティブ」にあわせて本邦初訳! 仏映画の巨匠ジャック・タチによる名作映画『ぼくの伯父さん』の小説版。大人になった少年が変わり者の伯父さんとの日々を回想する物語。タチ映画のポスターイラストを手がけたピエール・エテックスによる線画イラストも魅力。 著者略歴 ジャン=クロード・カリエール(JEAN-CLAUDE CARRIÈRE) 1931年生まれ。フランスの作家、劇作家、脚本家。高等師範学校を中退後、映画監督ジャック・タチの弟子で本書の挿絵も担当したピエール・エテックスの監督デビュー作となった短編映画『破局』で脚本家としてデビュー。手がけた脚本は約60本で、主な脚本に『昼顔』等のルイス・ブニュエルの後期傑作群、フォルカー・シュレンドルフ『ブリキの太鼓』、大島渚『マックス、モン・アムール』などがある。自身の著書も約80点あり、邦訳としては、ウンベルト・エーコとの共著の『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(CCCメディアハウス)などがある。2021年に逝去。享年89歳。 ピエール・エテックス(PIERRE ETAIX) 1928年生まれ。フランスの映画監督、俳優、道化師、イラストレーターなど。5歳のときに行ったサーカスに魅せられ、道化師の道を志す。ジャック・タチに弟子入りし、『ぼくの伯父さん』でアシスタントを務める。その時、イラストレーターとしての才能も買われ、ポスターデザインと、ノベライズ版の挿絵を手がける。そこで知り合ったカリエールと、自身も映画を制作するようになり、『恋する男(女はコワイです)』『ヨーヨー』『大恋愛』など長編・短編合わせ7本以上の映画を撮る。2016年に逝去。享年87歳。2022年末より「ピエール・エテックス レトロスペクティブ」が全国にて順次公開される。 小柳帝(こやなぎ みかど) 1963年福岡県生まれ。ライター、編集者、フランス語翻訳。東京大学大学院総合文化研究科表象文化論(映画史)の修士課程修了後、映画・音楽・デザインなどをテーマに執筆活動を続けている。主な編著書に『モンド・ミュージック』(リブロポート)『ひとり』『ROVAのフレンチカルチャー AtoZ』(ともにアスペクト)『小柳帝のバビロンノート 映画についての覚書』(woolen press)。主な翻訳書に『ぼくの伯父さんの休暇』『サヴィニャック ポスター A–Z』(ともにアノニマ・スタジオ)。フランス語教室「ROVA」を主宰し、2022年に23周年を迎えた。
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ユリイカ2023年1月臨時増刊号 総特集=ジャン=リュック・ゴダール -1930-2022-
¥3,080
発行 青土社 定価3,080円(本体2,800円) 発売日2022年12月27日 ISBN978-4-7917-0426-2 追悼の不可能性とともに ゴダール死去とはいったいなにごとであるのか、〈映画〉とはゴダールにとって(/において)いったいなんであったのか、ゴダールの〈映画史〉とはなにか、幾度となく、しかし断片的にくり返された問いかけが決定的な切断とともに再起している。いまも〈映画〉は粛々と起動しつづけている、JLGのピリオドより始めよ。 [目次] 総特集*ジャン=リュック・ゴダール――1930−2022 ❖さまざまなるもの――口絵 展覧会《感情、表徴、情念――ゴダールの『イメージの本』について》 / 写真・コラージュ=ファブリス・アラーニョ ❖アデュー…… ジャン=リュックとの二〇年 / ファブリス・アラーニョ 訳=槻舘南菜子・堀潤之 それは彼だったからだし、わたしだったから / エリアス・サンバール 訳=堀潤之 ❖邂逅と別れ レマン湖の畔にて――ゴダールにとっての――あるいはストローブにとっての――スイスについて / 蓮實重彦 ゴダールもまた死す――息切れの友情の果てに / 山田宏一 飛行機としてのジャン=リュック・ゴダール / ジョナサン・ローゼンバウム 訳=堀潤之 ゴダール、これを最後に / フィリップ・アズーリ 訳=中村真人 ❖歌として ジャン=リュック・ゴダールに捧げる頌(オード) / 四方田犬彦 ❖批評による追想 ゴダールについて / フレドリック・ジェイムソン 訳=山本直樹 ゴダール 回顧的断章 / 中条省平 ゴダールについて、私はまだ何も知らない――引用と回想によるモノローグ / 佐々木敦 ゴダールを巡る余白の余白の余白…… / 丹生谷貴志 追悼という名のスタートライン / 赤坂太輔 ゴダールとスイスと私と / 土田環 ❖「考古学者」たち――インタビュー ジャン=リュック・ゴダールを巡って / ニコル・ブルネーズ 訳=槻舘南菜子・堀潤之 ❖来たるべき書物 空間、イメージ、書物――ゴダールの展覧会《感情、表徴、情念》の余白に / 堀潤之 ゴダールによる引用は本当にどのようにあるのか――『イメージの本』の最後の引用を中心に / 持田睦 ゴダールにおけるいくつかのベンヤミン的モティーフについて / 竹峰義和 こだまをめぐる覚書――ゴダール『言葉の力』の傍らに / 森元庸介 イマージュの海、第二の死 / 髙山花子 作家になりそこねた男 / 柴田秀樹 ❖詩において 偉大なるアーキヴィストの死 / 松本圭二 ❖触る、切る、繋ぐ 手で見る世界――ゴダールのモンタージュと「リアリズム」 / 伊津野知多 ゴダールにおける手の表象と「死後の生」――出来事とマシンの結び目をめぐって / 髙村峰生 明暗の継起、あるいは映画の輪郭について / 常石史子 光と「ウィ」──ゴダールの「エリック・ロメールへのオマージュ」に導かれて / 小河原あや 空隙を撃つ――ゴダールのNo Thingと手のないアーキビスト / 難波阿丹 Instant Godard――ゴダールのインスタライブをめぐって / 石橋今日美 ❖見出された時 JLG ET MOI / 黒田硫黄 ❖シネマをめぐって ゴダール以後、映画以後について / 七里圭 ゴダールと切断――生の似姿として / 中村佑子 ゴダールは決して笑わない / 清原惟 ❖存在のためのレッスン 人間の探究と発見――ゴダールと俳優演出をめぐる覚書 / 角井誠 中庸の人間、ゴダール――ジャン=リュック・ゴダールの「ドラマ上の理由」による編集について / 數藤友亮 チャップリンとゴダール――シネマ・ヴェリテの創出 / 大野裕之 悲しみのミリアム・ルーセル――ゴダールの女優史 / 田村千穂 像(イメージ)を産む処女――『こんにちは、マリア(Je vous salue, Marie)』に寄せて / 柳澤田実 ゴダールによるシナリオのためのささやかな覚書 / 原田麻衣 ❖それぞれのこと 長いお別れ——ゴダールをめぐる私的な回想 / 斉藤綾子 ゴダールの死を受けてのフランス / 魚住桜子 『イメージの本』が手渡してくれたもの / 尾崎まゆみ ❖理論という反語 二重性の徴(しるし)のもとに――ゴダールと映画理論 / 武田潔 ゴダールの才能とは何か / 伊藤洋司 ゴダールとエイゼンシュテイン――「つなぎ間違い」から「重なり合い」へ / 畠山宗明 映画、批評、世界――三位一体の伝統 / 久保宏樹 映画は成就できない――物語とジャン=リュック・ゴダール論 / 鈴木一誌 ❖記憶とともに ドキュメンタリーの詩人、ゴダール――アンヌ・ヴィアゼムスキー、京都で学生と語る / アンヌ・ヴィアゼムスキー 聞き手・訳・構成=大野裕之 ❖SON-IMAGEふたたび ここで、よそで、いたるところで――Joindre Longtemps ses Grimaces / 小沼純一 ゴダールの音を遡る / 細馬宏通 ゴダール映画のサウンドトラック──ジョン・ゾーンの初期作品をネガとして / 長門洋平 カメラ+レンズの音楽 / 荒川徹 ないがしろにされた演奏――ジャン=リュック・ゴダールの「メタフィルム・ミュージック」をめぐって / 新田孝行 男性・女性、音楽・声──『アルミード』における音と映像 / 行田洋斗 ❖闘争=逃走線に向かって 黒 / 佐藤雄一 「死んでもいい」 / 山崎春美 開いている店は開いている / 渥美喜子 ❖政治/場所/歴史 映画の真の敵は連邦準備制度である / 廣瀬純 ゴダール/革命の中絶 / 石川義正 二つの戦線で闘う――「政治的」なゴダールをめぐって / 長濱一眞 ドイツから見るゴダール――ブレヒト、ニュージャーマンシネマ、『ドイツ90年(新ドイツ零年)』 / 渋谷哲也 真理の二つの顔、あるいは敗者たちの詩人 / 鵜飼哲 ゴダール・ポストコロニアル――イメージ、音、そして声 / 須納瀬淳 ❖ダンスのように 子供は遊ぶ、ゴダールも遊ぶ、みんな遊ぶ / 森泉岳土 ❖あるいは革命について 労働としての映画――『勝手に逃げろ/人生』におけるゴダールの転回をめぐって / 長谷正人 六八年のゴダールとマルケル / 吉田孝行 崇高な夢――ゴダールについて / 上尾真道 after the requiem――ジャン リュック・ゴダールの脱構成 / 森元斎 黒板としてのスクリーン――ジガ・ヴェルトフ集団のオンデマンド授業動画映画 / 佐々木友輔 ❖映画へ ゴダール作品リスト / 堀潤之 装幀=水戸部功 Photo by Leonardo Cendamo/Getty Images
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ユリイカ2024年1月号 特集=panpanya -夢遊するマンガの10年-
¥1,760
SOLD OUT
発行 青土社 定価1,760円(本体1,600円) 発売日2023年12月26日 ISBN978-4-7917-0442-2 商業誌デビュー10年・単行本10冊目刊行記念 「端切れ」を拾い、観察し、想像するというプロセスからpanpanyaのマンガは生成される。「寝入りばなにみる夢のよう」とも形容され、時に「ガロ系」をはじめとする日本のオルタナティヴ・コミックの水脈上に位置づけられるその仕事は、まるで終わらない自由研究のように拡大と深化を続けている。最新刊『商店街のあゆみ』の刊行に際し、拾い集められてきた「端切れ」たちを改めて見つめ直し、それらによって形成された架空の町の中でこれからも道に迷い続けるための地図を想像したい。 特集*panpanya──夢遊するマンガの10年 ❖マンガ 予告 / panpanya ❖インタビュー 名残を描く / panpanya 聞き手=可児洋介 ❖渚にて 「街」と「私」──日本におけるオルタナティヴ・コミックの水脈 / 可児洋介 波よ、楽園まで届け──『楽園Le Paradis』という媒体=場をめぐって / 雑賀忠宏 ❖かたちを作る 心に残るもの / 飯田 孝 ユカイが集う あの場所へ──SF研究会とコミティアと / 吉田雄平 正体 / 多治見武昭 資料性みやげ / 國澤博司 ❖伝播するできごと 索引と屁理屈、そしてpanpanya 的小事件 / 春日武彦 panpanyaの主題による四つの変奏 / 細馬宏通 ❖再録 後輩ちゃん / panpanya ❖trans/duce 彷徨の体 / 酉島伝法 動物、世界の内側 / おいし水 ❖描線の夢・紙の現(うつつ) panpanyaのマンガ作品における非・キャラクター / 森田直子 寝入りばなの夢のつづきかた / 中田健太郎 環境の共同 / 木下知威 ❖往復書簡 地図の研究 / panpanya×青柳菜摘 ❖イラスト・マンガギャラリー〈1〉 ある日のpanpanyaさん / 竹本 泉 群棲地の置き場所 / 平方イコルスン panpanya作品との出会い / kashmir 時間と濃淡 / 犬のかがやき ❖彷徨と変異 逸脱者たちが見る不思議の国の夢 / トジラカーン・マシマ A Little Girl Lost / 石井美保 ❖compound angle レオナルドとの会話、あるいは現実と非現実の硲(はざま)について / 渕野 昌 panpanyaさんについて / 八谷和彦 ❖モノへの眼差し 「架空の通学路について」についての架空の考現学講義──あるいは〈考現学マンガ〉研究序説 / イトウユウ 少女たちの眼と不可思議 / 寺村摩耶子 自律した(リアルな)モノとモノとが創るモノがたり(フィクション) / 本橋 仁 ❖イラスト・マンガギャラリー〈2〉 彷徨 / カシワイ 風景 / 飯島健太朗 パンパンヤさんありがとうございました / 西村ツチカ 卵をめぐる漫画の探索 / 速水螺旋人 ❖ジオラマの肌理 本物の街 / 石山蓮華 スクールゾーンの空想科学 / 木石 岳 歌ってない歌 / 斎藤見咲子 ❖揺らぎを見つめる 真面目な異界めぐり──panpanyaのマンガ作品における行動原理についての覚書 / 川崎公平 転がるおむすび、兎の穴へ降る──観察・日常の謎・陰謀論 / 荒岸来穂 ❖資料 panpanya全単行本解題 坂本 茜 ❖忘れられぬ人々*27 故旧哀傷・菅野昭正 / 中村 稔 ❖物語を食べる*35 妖精と出会うこと、病むこと / 赤坂憲雄 ❖詩 夕焼け、または、わが魂の行衛 他三篇 / 中村 稔 ❖ユリイカの新人 三面鏡 / 山内優花 パミス 他一篇 / のもとしゅうへい ❖われ発見せり 老学徒と『鉄拳』の出逢い / 平井和佳奈 表紙・扉イラスト……panpanya 目次・扉……北岡誠吾
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ユリイカ2023年12月臨時増刊号 総特集=坂本龍一 1952-2023
¥1,980
発行 青土社 定価1,980円(本体1,800円) 発売日2023年11月1日 ISBN978-4-7917-0440-8 追悼・坂本龍一 坂本龍一とはどのような音楽家であったのだろうか、音楽という営為の自律性が起源とともに問い返されることになる。それこそ坂本龍一の問いであったと信じること、出発点はそこにある。われわれはたしかに坂本龍一の時代を生きていた。坂本龍一死去、残響の手前にその音楽を聴き返す。 【目次】 総特集*坂本龍一 1952-2023 ❖インタビュー 古い付き合い / 大貫妙子 聞き手・構成=ばるぼら ❖記憶の始まり 坂本龍一を偲んで / 池辺晋一郎 坂本君の教育実習 / 野村滿男 《---分散・境界・砂---》の頃のこと / 高橋アキ 若き日の坂本龍一さんへ / 牧村憲一 ❖奏者――ピアノ‐キーボード‐シンセサイザー 電子音楽のコンステレーション / 川崎弘二 デザインする/される坂本龍一 / 久保田晃弘 「ポスト・キーボード」のピアノ / 谷口文和 再び見出された「即興」の方法論的可能性――坂本龍一とインプロヴィゼーション / 細田成嗣 ❖生き生きとした時間 教授と共に駆け抜けた七〇年代、僕らの音楽革命 / 渡辺香津美 すべての瞬間が生きていた! / 加藤登紀子 永遠に輝き続ける光 / クリス・モズデル 訳=小磯洋光 彼方へ アーバン・シンクロニテイを極点としたスイングバイ――「地下活動」備忘録として / 佐藤薫 傷口それ、まだひらいてるし。 / 山崎春美 ❖音楽/メディア/政治 千の一九六八年――音の相聞歌 / 平井玄 坂本龍一の「アジア」――現代音楽以後の道 / 柿沼敏江 坂本龍一のメディア論的思考――一九八〇年代、なぜ未来派に惹かれたのか / 飯田豊 坂本龍一と哲学者たち――「音」の所在 / 檜垣立哉 「不安定な生」と坂本龍一――音楽と社会活動の政治学 / 中條千晴 ❖同時代人として ファインダー越しの邂逅 / 高田漣 SILENCE 無時間的音楽 / 蓮沼執太 前夜 / 原摩利彦 “坂本龍一音楽”の美学 / 狹間美帆 音楽と/の作曲、イメージと/の機能――校歌制作記 / 網守将平 ❖呼び交わすインデックス 「commmons: schola」をおもいだしながら / 小沼純一 オペラ《LIFE》、生きられた偽史――一二音技法へのリファレンスの再検討から / 白井史人 作曲という営みの庭――坂本龍一といくつかの小石 / 久保田翠 〈自己〉を聴く技法としての演奏行為 / 堀内彩虹 ポストモダンの呼吸を聴く――坂本龍一の「音楽」について / 仲山ひふみ ❖座談会 二〇〇〇年以降の坂本龍一の音楽 / 大友良英+秋山徹次+伊達伯欣 ❖遺産相続 それだけではない――現代社会の芸術家 / 三輪眞弘 TRAVELER / 渡邊琢磨 坂本龍一、含羞の線 / 千葉雅也 坂本龍一とメディアアート / 四方幸子 ❖空に降る 美貌の青空はどこに――「一音一時」展をめぐるメモランダム / 松井茂 坂本龍一と雨の降る庭と能――《LIFE》シリーズから《TIME》へ / 原瑠璃彦 坂本龍一はサウンド・アーテイストではない/でもある / 小寺未知留 海へ / 髙山花子 ❖邂逅と瞬間 翁と坂本龍一様 / 大倉源次郎 ピアノの弦が、指の先で、そして指の先で、ピアノの弦が。 / 和合亮一 教授がいたから / 笹公人 大好きな大人 / 山中瑶子 ❖ペルソナは語るか YMOの/と坂本龍一――「環境」と歴史、切断と継承の間で / 円堂都司昭 ふ・る・え――『戦メリ』の坂本龍一がもたらしたもの / 田村千穂 坂本龍一の作詞的行為について / 木石岳 美しい音楽/美しい技芸――坂本龍一の創作に関する私的な断片 / 西村紗知 ❖LIFE – endless... 坂本龍一:INSTALLATION/ART/SOUND / 阿部一直 装幀=水戸部 功 表紙写真=Photo by Neo Sora ©2017 Kab Inc.[表1(コラージュによる)]/Photo by Neo Sora ©2016 Kab Inc.[表4]
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ユリイカ2023年12月号 特集=長谷川白紙 -幻と混沌の音世界へ-
¥1,980
発行 青土社 定価1,980円(本体1,800円) 発売日2023年11月27日 ISBN978-4-7917-0441-5 加速し攪乱するシンガーソングライター 多種多様な音楽のエッセンス、柔らかな肉声、不可思議なことばの連なり、それらをデスクトップ上で混ぜ合わせた唯一無二の「歌」を、衝撃と混乱とともに轟かせてきた長谷川白紙。LAを拠点とするBrainfeederとの契約が発表され、ますます世界中で注目度を高める革新的なサウンドに身を委ねれば、これからの音楽が聴こえてくる。「わたし自身の身体による音楽の攪乱」――長谷川白紙自身によるマニフェストを受け取り、CDデビュー5周年を迎えた先にひろがるカオスな風景を描き出す。 特集*長谷川白紙──混沌の音世界へ ❖対談 からだの言葉、言葉のからだ / 長谷川白紙×水沢なお ❖詩 新しい恋 / 最果タヒ ❖長谷川白紙と邂逅する 好き長谷川白紙 / 諭吉佳作/men いつくしい日々の思い出 / 姫乃たま 長谷川白紙とスペクトル / 今井慎太郎 ❖わたしたち、一緒にいたっぽい 複雑な音楽性が自由なノリを生む――長谷川白紙のライブにおける「権威性に対する撹乱」、付かず離れずの軽やかな連帯感 / 和田信一郎(s.h.i) ハクシトワタクシ / タカノシンヤ 始まりの季節 / スッパマイクロパンチョップ ❖インタビュー 変容し続ける音楽と肖像 / 長谷川白紙 聞き手=和田信一郎(s.h.i) ❖音から想像を広げて 音の光 / 海野林太郎 さまよう映像制作 / 松永昂史 草木萌え尽きぬ / イシヅカユウ ❖オマージュイメージギャラリー 『草木萌動』(二〇一八) / 相磯桃花 『エアにに』(二〇一九)「ユニ」(二〇二一) / 浦川大志 / from_photobooth 『夢の骨が襲いかかる!』(二〇二〇) / KOURYOU 『音がする』(二〇二〇)『巣食いのて』(二〇二一) / しばしん+竹久直樹+米澤柊 『アイフォーン・シックス・プラス』(二〇一七) / 山形一生 ❖長谷川白紙を媒介するもの コンテンポラリー・アートの場としての長谷川白紙と過剰な装飾――アヴァンギャルドでキッチュ / きりとりめでる 長谷川白紙と多受肉するペルソナたち――声と身体をめぐる新たな表現ジャンル「多受肉する歌い手」の誕生――ARuFa、月ノ美兎、ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。、Ado、いよわ――について / 難波優輝 ❖アンケート 長谷川白紙さんへ / 水野良樹・崎山蒼志・∈Y∋・谷中敦・長久允・パソコン音楽クラブ ❖居心地の良いカオス 『エアにに』 言葉のオブジェクティビティ――テクスチャの豹と歌詞空間の庭を作る / 青島もうじき 無性のエコー / 原島大輔 破断と攪乱――長谷川白紙の詞におけるクィアネス / 青本柚紀 ❖音楽と音楽を繋ぐ 混乱し続ける音楽と僕たち / The Anticipation illicit tsuboi 聞き手=編集部 新たな混乱――長谷川白紙とBrainfeederについて / 坂本哲哉 ジャズとして語られる『草木萌動』 / 細田成嗣 混沌と速度、落差と歌――長谷川白紙といくつかのボカロ曲について / Flat 音がする / yuigot 長谷川白紙さんについて / 今泉力哉 ❖長谷川白紙の聴き方 混沌、断絶、グルーヴ――長谷川白紙のリズムの実践を観察する / imdkm 『アイフォーン・シックス・プラス』についてのメモ / 灰街令 からだのきらいなわたしのからだ――『夢の骨が襲いかかる!』から聴き取る、「編まれ直し」としてのクィア・ファンク / 伏見瞬 ❖資料 長谷川白紙クロニクル / 天野龍太郎 ❖忘れられぬ人々*26 故旧哀傷・副島有年 / 中村稔 ❖物語を食べる*34 異端の鳥たちが空を舞う / 赤坂憲雄 ❖詩 Eyeless in Gaza / 四方田犬彦 ❖今月の作品 朱泪みね・山内優花・のもとしゅうへい・木下多尾・栫伸太郎・赤澤玉奈 / 選=大崎清夏 ❖われ発見せり 人形愛者の秘かな愉しみ / 谷口奈々恵 表紙・目次・扉……北岡誠吾 扉イラスト……相磯桃香
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ユリイカ2022年3月号 特集=アピチャッポン・ウィーラセタクン -『世紀の光』『ブンミおじさんの森』『光りの墓』、そして『MEMORIA メモリア』へ-
¥1,650
発行 青土社 定価1,650円(本体1,500円) 発売日2022年2月26日 ISBN978-4-7917-0414-9 待望の長篇最新作『MEMORIA メモリア』3月4日公開 タイに生まれ、とりわけ東北地方イサーンの記憶——精霊、民話、森…——を写し続けてきた作家アピチャッポン・ウィーラセタクン。『ブリスフリー・ユアーズ』、『トロピカル・マラディ』、そしてタイ映画史上初のパルムドール受賞作『ブンミおじさんの森』に続く四度目のカンヌ国際映画祭受賞作となった『MEMORIA メモリア』では、南米コロンビアという“異郷の地”をいかに写したのか。いまこそ、アジアそして世界にとって最重要の映像作家に迫る。 【目次】 特集*アピチャッポン・ウィーラセタクン——『世紀の光』『ブンミおじさんの森』『光りの墓』、そして『MEMORIA メモリア』へ ❖インタビュー ぼく自身という家 / アピチャッポン・ウィーラセタクン 聞き手=福冨 渉 ❖映画と記憶 科学と神秘 / 佐々木 敦 アピチャッポンの耳、『MEMORIA メモリア』の音 / 長門洋平 記憶、儀礼、投影——アピチャッポン作品をつなぐ「アンテナ」 / 中村紀彦 よそものたちの記憶の旅——アピチャッポンのコロンビア / 新谷和輝 ❖共振する幻 Memoria——記憶の残響 / 清水宏一 シンクロニシティ / 久門剛史 「アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち」の記憶 / 田坂博子 ❖不可視なるもの 横断するガイストの振動——アピチャッポン・ウィーラセタクンの霊性美術 / 伊藤俊治 異化されたゾミアの物語——アピチャッポン・ウィーラセタクン『真昼の不思議な物体』をめぐって / 石倉敏明 イサーンの森からの帰還——『ブンミおじさんの森』と精霊の民族誌 / 津村文彦 ❖芸術と政治 諦観からの応答——『世紀の光』を『光りの墓』の伏線として読む / 綾部真雄 アピチャッポンのカメラに写るもの、写らないもの / 足立ラーベ加代 新たなる二院制?——アピチャッポン作品における政治、科学、記憶 / 福島真人 ❖対談 未知なる〈映画〉との遭遇 / 富田克也×相澤虎之助 ❖光の地層 映画の神様なんかいらない——『MEMORIA メモリア』をめぐって / 福間健二 『光りの墓』を思い出す / 金子由里奈 今立っているその場所に、すでにある多世界——抵抗者としてのアピチャッポン・ウィーラセタクン試論 / 太田光海 無口な彫像たちの声をきく——《Fireworks(Archives)》の舞台から / 椋橋彩香 ❖巡り会うふたり Blissfully Yours——森と夢と2つの世界 / 夏目深雪 ゲイ・ロマンス、精霊、シャーマン、虎、フレンドリーな「おばさん」——『トロピカル・マラディ』の魅力を叫ぶ / 溝口彰子 タイ“クィア映画”天文図の素描——アピチャッポンを主星として / 児玉美月 ❖映画の旅路 タイ映画史にアピチャッポンは接続できるのか? / 石坂健治 アピチャッポン・ウィーラセタクンと実験映画 / 阪本裕文 スローシネマ、アピチャッポン、マジックリアリズム / 銭 清弘 ❖資料 アピチャッポン・ウィーラセタクン クロニクル / 中村紀彦 ❖忘れられぬ人々*5 故旧哀傷・岸薫夫 / 中村 稔 ❖物語を食べる*14 愛と痛みと恐怖が運命をひらく / 赤坂憲雄 ❖詩 三月日より / 山岡ミヤ ❖今月の作品 川窪亜都・秋葉政之・シーレ布施・江田つばき / 選=大崎清夏 ❖われ発見せり ワードローブから本棚へ / 赤阪辰太郎 表紙・目次・扉=北岡誠吾 表紙図版=『MEMORIA メモリア』©Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.
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仄世界|森泉岳土
¥1,980
発行 青土社 定価1,980円(本体1,800円) 発売日2022年12月23日 ISBN978-4-7917-7514-9 3人の女性の不可思議な運命を描く連作マンガ作品集。 頬にもうひとつの顔を持つ女性が謎めいた少女に翻弄される「有紀と有紀」、身元不明の子どもを保護したことから周囲との関係が次々と失われていく「散文的消失症候群」、病死した妹の身代わりにと買った手の模型が思わぬ事件をよぶ「そこにいた」。どこかで見失われ、底知れない世界を生きる3人の女性の不可思議な運命を、鉛筆の精緻なタッチと淡い色で描く。 霞む街景色の中に、 消え入りそうになる自分と、 輪郭を際立たせる虚體。 その境界が甘美であり、 おぞましくもあり。 ――岩井俊二(映画監督) 確かだと思っていたものが 実はまったく曖昧で 不確かなものだと気づいたとき、 そして本当はそのことを自分も知っていた、 気づいていた、気づかぬふりをしていた、 気づかないよう祈っていた ということに思い至ったとき、 彼女たちは、私たちは、 「え?」と静かに聞き返す。 ――小山田浩子(小説家) [目次] 有紀と有紀 散文的消失症候群 そこにいた 解説 小山田浩子 [著者]森泉岳土(もりいずみ・たけひと) マンガ家。墨を使った独自の技法で数多くのマンガ、イラストレーションを発表している。著書に『アスリープ』(青土社)、『爪のようなもの・最後のフェリー その他の短篇』(小学館)、『セリー』『報いは報い、罰は罰(上・下)』(以上、KADOKAWA)、文学作品のマンガ化に『フロイトの燃える少年の夢』『村上春樹の「螢」・オーウェルの「一九八四年」』『カフカの「城」他三篇』(以上、河出書房新社)などがある。
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おくれ毛で風を切れ|古賀及子
¥1,980
SOLD OUT
発行 素粒社 ISBN:9784910413136 Cコード:C0095 定価:¥1,980(税込) 発売日:2024.2.2 「本の雑誌」が選ぶ2023年上半期ベスト第2位『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』の著者による日記エッセイ まだまだあった前回未収録作に加え、書き下ろしを含む新たな日記を収めた第2弾 母・息子・娘、3人暮らしの、愉快で多感な日々 「暮らして、暮らして、暮らしきる」 【推薦】 日記文学のオールタイム・ベストに加えたい。 ――牟田都子(校正者) 実在する優しい日々が私の心をほぐしてくれました。 古賀さん! こっちまで幸せになっちゃいますよ。 ――藤原麻里菜(「無駄づくり」発明家) 目次 2019年2月〜2020年12月 2019年 宇宙がすごい広いんだが 車窓を見る人は黒目がカクカク動く 「はい、論破」みたいに幸せを 猫をさがしていそうな人たちだった 燃えるごみよりも資源ごみのほうが多いでしゅよ 情報は目でとまって頭にまで到達していなかった 目の前で大福が売り切れて誇らしい 悔しがるころは過ぎた 「ねえ見て!」があるから人は連れ立ってどこかへ出かける 全力で走りそしてふたりは出会った 人間社会で成長することそのもの まあまあ家 気づかないまま傷つく これからほっぺたをバンバンにふくらませる宣言 こういうものなんだからとだまっていた 伝えたい豆知識があるんだ 別れのメールをローマ字で書いた 同じ家に同じ気持ちの人がいる 腐りゆくのを見るのがいやで腐る前に捨てた それは個人の感想だろう 氷を揉み溶かしとがらせる こっそり水道水を飲む 背負ったネギが夕日を受けて輝く 2020年 私いまかなりドラえもんっぽいことになってないか もしかして楽しかったの? くれぐれも家を燃やさないように カーっとした量のハンドクリーム ここに真の卒業がある よくない予感を共有する 同じ家でも今度ははじまる スポークが折れて感心感心 ポップコーンをはぜさせる人を離れたところから見る 鳩サブレーを食べる自分の様子をふと思う 感激して「優しい!」と冷やかす 新しいカードに無を移行する 気安い友人や家族だけが目撃する ふんわりではなくふっくらしている顎 もしフィクションで描かれてなかったらどう思ったろう 消費はむずかしい 血管が動くのを見あう 事情を誰かに話すときはいつも自信がない 冷えた生卵を持ち続けて手がつめたい 意識の私を無意識が急に起こす 赤や緑や青が次々に色を変え光っている テトリスでこんなに遊んでしまう 2022年3月〜2023年8月 2022年 これだ漫才の起源 有象無象のドーナツ お菓子が配られているのではないか 新入りバイトの態度で生きる 13で割る! 中2の景色 これはさては呪術だな 「まあいいか」が「まあよくない」をチョイスする 水漏れを飼う ミロがなくなる ふすまに海を きっとうまい肉だ 大人に連れていかれる このまま無印良品に飲み込まれる 悪口は味 黒か紺か そんな個性的な営業時間 夜のとばりのようですね このままはやく朝にしてしまいたい わたしではないあなたたち おれはひとりしかいないのに 思考のあさましさに感じるハングリー精神 無機物ばかりが登場する人生の走馬灯 わたしたちのアイコンタクト ふりかけが大好きな人たち 2023年 おくれ毛で風を切れ 突然一生会わない人になる 夢のもたつき 布団をならべて夜ねむるよう 楽しみにしている人がいると心強い 家は家であり、家っぽいものでもある 人間が自由だとよく知っている 孤独な意地汚いお祭り 抜けも飛びも刺さりもしない きみの名前を知ることそのもの ひとつの世界の終わり まんじゅうにどこまでも盛り上がってしまう 小枠も小枠な生き方の多く 手のひらで光ってはじける塊の時間 いちばん大きな音のカッター 本気の餓鬼でもなかったようで 尊び信じて優しく 弁当の責任と関心 今日は一緒に行けてよかった 現実だったらあんまりだ 畏れることない不公平感 バレエと敬礼
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●アクリルスタンド付き特装版 ファミレス行こ。上|和山やま
¥2,090
SOLD OUT
発行 KADOKAWA 発売日 : 2023年12月28日 サイズ : B6判 定価 : 2,090円(本体1,900円+税) ISBN : 9784047377486 深夜に揺れるファミレスの光は様々な人間を引き寄せ、全てを受け入れる。 あの、「地獄のカラオケ大会」から4年――。 大学1年生の岡聡実くんは、東京で「普通の大人」になるべく学業に勤しんでいた。 しかし、ひょんな出来事から始めた、深夜のファミレスのアルバイトをきっかけに 奇妙な縁は、再びめぐり始める。バイト先のファミレスに現れるマンガ家・北条先生、 マンガオタクでバイトの先輩・森田さん、そして、あの夏の日に出会ったヤクザ・成田狂児など、 個性豊かなメンツが聡実くんの日常に関わってきて……。 累計60万部突破&24年1月に実写映画公開の『カラオケ行こ!』の続編がついに刊行! 『ファミレス行こ。 上』の刊行を記念して、グッズ付き特装版が登場!! 聡実くんと狂児の中華屋さんでのごはん会を描いたイラストを使用したアクリルスタンド! ぜひ、お部屋に飾って楽しんでください。 〈仕様〉サイズ:約147mm×105mm以内、素材:アクリル
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脳のお休み|蟹の親子
¥1,980
発行:百万年書房 4-6変 縦118mm 横188mm 厚さ16mm 重さ 219g 232ページ 上製 価格 1,800円+税 ISBN978-4-910053-45-5 初版年月日2024年1月29日 暮らしレーベル、第5弾。 滝口悠生さん、推薦。 「文章を書くことはどうしたって誰かが生きた時間の肯定になることをこの本の文章は教えてくれる。湖底に潜むような、重くて鈍い、けれども確かな希望。」 前書き ――高い金払って大学行かせてもフリーターか。くその役にも立たないな。 身体の障害だったら障害者って分かってもらいやすくていいよね、と言うのを黙って聞いていたことがある。そういう声を聞くたびに、人間の想像力が争いを解決してくれることなんてあるのだろうかと思った。現に、私はその声に憤る。私はあなたじゃない。(本文より) ひとりなのに親子だという。足は多いが横にしか進めない。そんな奇妙な名を持つ書き手は、自分の体が過ごしてきた時間を気重たげに行き来する。文章を書くことはどうしたって誰かが生きた時間の肯定になることをこの本の文章は教えてくれる。湖底に潜むような、重くて鈍い、けれども確かな希望。ーー滝口悠生(小説家) 著者プロフィール 蟹の親子 (カニノオヤコ) 1991年生まれ。日本大学芸術学部卒。事務員や書店員を経て、東京・下北沢にある「日記屋 月日」初代店長となる。現在もスタッフとして働き、日記や、思い出すことそのものについて日々考えている。本書が商業出版デビュー作となり、自主制作本に『にき』『浜へ行く』がある。
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コンプレックス・プリズム|最果タヒ
¥880
だいわ文庫 出版年月日 2023/08/08 ISBN 9784479320647 判型・ページ数 文庫 ・ 208ページ 定価 880円(本体800円+税) 人気現代詩人・最果タヒが、自身のなかにある「劣等感」をテーマに綴ったエッセイ集に、未発表の書き下ろし作品を加えて文庫化。
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十六夜橋 新版|石牟礼道子
¥1,100
ちくま文庫 1,100円(税込) Cコード:0193 整理番号:い-44-3 刊行日: 2023/01/10 判型:文庫判 ページ数:432 ISBN:978-4-480-43860-7 JANコード:9784480438607 南九州・不知火(しらぬい)の海辺の地「葦野」で土木事業を営む萩原家。うつつとまぼろしを行き来する当主の妻・志乃を中心に、人びとの営み、恋、自然が叙情豊かに描かれる傑作長編。作者の見事な筆致で、死者と生者、過去と現在、歓びと哀しみが重なり、豊饒な物語世界が現れる。第三回紫式部文学賞受賞作品。 著者について 石牟礼 道子(いしむれ・みちこ):1927-2018年。作家。熊本県天草郡に生まれ水俣市に育つ。69年『苦海浄土――わが水俣病』を刊行。73年マグサイサイ賞、86年西日本文化賞を受賞。93年に本作『十六夜橋』で紫式部文学賞受賞。2001年度朝日賞受賞。02年『はにかみの国――石牟礼道子全詩集』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。他の著書に『アニマの鳥』『椿の海の記』『石牟礼道子全集 不知火』などがある。
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親密圏のまばたき|柴沼千晴
¥990
リトルプレス A6判・180頁+ポストカードサイズの別紙(p.140 に挟み込むかたちで同封) 2023年12月10日 発行 税込990円 血縁や婚姻に依らない「親密圏」という言葉との出会い、人と人が親密さに触れること、すべてが固有の関係性で、その中にわたしの生活がある。 2023年6月1日~11 月19日までの日記と、親密さについての散文(2 編)と、短い詩のようなもの(1 編)を収録。 (出てくるキーワード) 満月と体調/石の散歩/スピッツ/美容院/排水溝の掃除/イマジナリー飲み会/ひ とりで泣いたことがある街リスト/上田・松本へのひとり旅/桃とシャインマスカットと梨がある冷蔵庫/白菜と手羽中の酒蒸し/がらんどう/ 焼きそばパン/穏やかな睡眠/親密さ 著者について: 柴沼千晴(しばぬま・ちはる) 1995 年生まれ。東京都在住の会社員。2022 年の元日から毎日日記をつけはじめる。既刊に『犬まみれは春の 季語』『頬は無花果、たましいは桃』。好きな食べ物は桃。好きなバンドはスピッツ。 X: https://twitter.com/chiharushiba_ Instagram: https://www.instagram.com/chiharushiba_/
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韓国文学の源流 短編選4 1946–1959 雨日和
¥3,190
著者 池河蓮(チ・ハリョン)、桂鎔默(ケ・ヨンムク)、金東里(キム・ドンニ)、孫昌渉(ソン・チャンソプ)、呉尚源(オ・サンウォン)、張龍鶴(チャン・ヨンハク)、朴景利(パク・キョンニ)、呉永壽(オ・ヨンス)、黄順元(ファン・スンウォン) 翻訳 オ・ファスン、カン・バンファ、小西直子 発行 書肆侃侃房 四六、上製、296ページ 定価:本体2900円(+税) ISBN978-4-86385-607-3 C0097 装幀 成原亜美 装画 松尾穂波 植民地から解放されても朝鮮戦争の戦後、完全に南北に分断され交流を絶たれた人々の苦悩は続く 「解放」後の混乱期に肩書をなくした高学歴の青年が<小ブルジョア>としての運命を予感「道程」。満洲からソウルに辿り着いた母と息子の、部屋さえ得られない苦難の日々「星を数える」。ひとところにとどまらず回遊していく男と、定住したまま動こうとしない女の相克「駅馬」。釜山に避難した貧しい兄妹のおぼつかない日々。ある日、二人は行方知れずになった「雨日和」。前線で戦っていた兵士が突然拘束され、転向を拒否したために辿る悲惨な運命「猶予」。南の島に幽閉された二人の捕虜。自死した仲間の家を訪ねた男を息子と思い最期を迎える母「ヨハネ詩集」。戦争時に夫を、戦後息子を失った女は神も信じられず、早逝した息子の位牌も焼いてしまう「不信時代」。朝鮮戦争は終わったが、その後軍の監房に収監された兵士たちのドタバタ劇「明暗」。休戦後、世の中はがらりと変わり、戦争時の密告者が罪の意識に苛まれるようになる「すべての栄光は」。 【目次】 道程―小市民 도정-소시민 池河蓮(チ・ハリョン/지하련) カン・バンファ訳 星を数える 별을 헨다 桂鎔默(ケ・ヨンムク/계용묵) オ・ファスン 訳 駅馬 역마 金東里(キム・ドンニ/김동리) 小西直子 訳 雨日和 비 오는 날 孫昌渉(ン・チャンソプ/손창섭) カン・バンファ 訳 猶予 유예 呉尚源(オ・サンウォン/오상원) 小西直子 訳 ヨハネ詩集 요한시집 張龍鶴(チャン・ヨンハク/장용학) カン・バンファ 訳 不信時代 불신시대 朴景利(パク・キョンニ/박경리) オ・ファスン 訳 明暗 명암 呉永壽 (オ・ヨンス/오영수) オ・ファスン 訳 すべての栄光は 모든 영광은 黄順元(ファン・スンウォン/황순원) 小西直子 訳 【著者プロフィール】 池河蓮(チ・ハリョン) 一九一二―一九六〇。慶尚南道の居昌(コチャン)に生まれる。本名は李現郁(イ・ヒョヌク)。一九四〇年、雑誌『文章』に「決別」を発表し作家となる。日本に留学し東京の昭和高等女学校に通ったと言われる。KAPF(朝鮮プロレタリア芸術家同盟)の指導者であった林和(イム・ファ)の妻としても知られる。一九四五年八月十五日の光復後は朝鮮文学家同盟に加担し、一九四七年に夫婦で越北するまでに多くの作品を発表した。主な作品に「決別」(一九四〇)「滞郷抄」「秋」(共に一九四一)「山道」(一九四二)「道程」(一九四六、朝鮮文学賞)「クァンナル(広津)」(一九四七)などがある。 桂鎔默(ケ・ヨンムク) 一九〇四―一九六一。平安北道生まれ。幼時の初名は河泰鏞(ハ・テヨン)。一九二八年に日本の東洋大学・東洋学科に入学。渡日以前から、一九二〇年に少年誌『鳥の声』に詩「寺子屋が壊れ」を発表して懸賞二等になるなど、詩や小説を執筆して作家としての頭角を現す。本格的活動は一九二七年、『朝鮮文壇』に小説「チェ書房」が当選してからである。一九三五年、同誌に「白痴アダダ」を発表し、作家としての地位を固める。その頃が彼の黄金期と評価されている。帰国後、朝鮮日報の出版部などでの勤務を経て、みずから出版社を設立している。一九四五年の「解放」直後、左右の思想に分かれる文壇の対立のなかでも、中立的立場を守ろうとする作家でもあった。「人頭蜘蛛」(一九二八)などに代表される初期の作品は現実主義的、傾向派とされるが、次第に芸術重視の作品世界へと変わっていった。晩年の作品では問題提起はするが、解決しようとする姿勢が見られず、それが彼の限界でもあると評されている。「解放」後の代表作が本書収録作品「星を数える」(一九四六)である。 長くない生涯だが、四十編以上の短編、エッセイ集『象牙塔』(一九五五)などを残している。 金東里(キム・ドンニ) 一九一三―一九九五。慶尚北道慶州(キョンジュ)に生まれる。本名は金始鍾(キム・シジョン)。母親が熱心なキリスト教徒だったことからキリスト教系の学校に通っていたが、一九二八年にソウルの儆新(キョンシン)高等普通学校に編入。しかし、翌年に退学。その後は読書に没頭し、一九三四年に詩「白鷺」が朝鮮日報の新春文芸に入選、登壇。翌一九三五年に朝鮮中央日報の新春文芸に短編小説「花郎の後裔」が入選し、小説家としての執筆活動に入った。一九三六年には東亜日報の新春文芸にも「山火」で入選している。その後、多数の作品を発表し、韓国を代表する純文学作家となったが、執筆活動のほかにも韓国文人協会の副理事長を皮切りに、中央大学芸術学部学長、韓国小説家協会会長、大韓民国芸術院会長、韓国文人協会名誉会長を務めるなど、社会活動も旺盛に繰り広げた。その文学的な特色としては、土着的な韓国人の生き方や精神を深く探求し、それを通じて人間に与えられた運命の究極のありさまを理解しようとする努力が挙げられる。そうした努力の結果として、伝統、宗教、民俗などの世界に最も関心を寄せた作家と評されるようになったが、そういった作風のものにとどまらず、当代の歴史的状況や知識人の苦悩を真っ向から扱った作品なども書いている。前者の代表作として「巫女図」(一九三六)、「黄土記」(一九三九)、「駅馬」(一九四八)、「等身仏」(一九六一)などがあり、後者の代表作としては「興南撤収」(一九五五)、「蜜茶苑時代」(一九五五)などがある。アジア自由文学賞(一九五八)を始めとし、五・一六民族文学賞(一九八三)、韓国芸術評論家協会が選定する二〇世紀を飾った韓国の芸術人(一九九九)など受賞多数。韓国の国民勲章柊柏章(一九六八)および牡丹章(一九七〇)も受けている。 孫昌渉(ソン・チャンソプ) 一九二二―二〇一〇。平壌(ピョンヤン)市生まれ。一九三五年に満州に渡り、のち日本で複数の中学校課程で苦学し、に日大にも在籍したという。一九四六の朝鮮解放と同時に帰郷するが、一九四八に越南。教師や雑誌社、出版社などの職を転々とし、一九四九年に短編「いじわるな雨」を『連合新聞』で発表。その後、短編「公休日」(一九五二)と「死縁記」(一九五三)を『文芸』で発表し作家デビューした。越南民の悲惨な避難生活を描いた「雨日和」(一九五三)で一躍注目を集め、「生活的」(一九五三)、「血書」、「人間動物園抄」(共に一九五五)などの作品を通じて著者ならではの悲観的かつ冷笑的な人間観を表出し、戦後の文壇を代表する若手作家のひとりとなった。一九七三年に日本に渡り、一九九八年に帰化。一九七六年『韓国日報』に長編歴史小説『流氓』を連載。二〇一〇年に東京で逝去。 呉尚源(オ・サンウォン) 一九三〇―一九八五。平安北道宣川郡(ソンチョングン)に生まれる。ソウル龍山高等学校を経て、ソウル大学仏語仏文学科卒。ソウル大在学時から同人活動を行っていたが、大学卒業と同時に東亜日報に入社した一九五三年に戯曲「錆びる破片」が劇芸術協会の公募に入賞し、文壇デビュー。一九五五年には短編小説「猶予」が韓国日報の新春文芸に入賞し、本格的に作家としての活動を開始した。その後、代表作とされる短編「謀反」などをはじめ、多数の作品を発表し、韓国の戦後世代文学を代表する作家のひとりに数えられている。戦後世代とは、韓国でいうところの六・二五、つまり朝鮮戦争の停戦直後である一九五〇年代の初頭から中ごろに登壇した作家を指し、青年期に入ってからの朝鮮戦争の経験を重要な文学的資産としているという共通点がある。呉尚源もやはりその特徴を示し、朝鮮戦争の頃を舞台とし、人間が「生きていく」ということ、生の中で「行動する」ということの意味を突き詰めようとした作家である。大学で仏文学を専攻したことから、フランス行動主義文学や実存主義文学に接し、その影響を受けたこの作家は、戦時の社会・道徳的問題を扱い、戦後世代の精神的挫折を行動主義的な観点からテーマ化する作品を残したが、七〇年代以降は執筆より言論活動に力を注ぎ、東亜日報の論説委員も務めた。記者在職当時は東亜日報に「汗を流す韓国人」と題した紀行文を連載したりもした。主な著作としては、短編「亀裂」(一九五五)、「謀反」(一九五七)、「現実」(一九五九)、「勲章」(一九六四)、「煙草」(一九六五)、長編「白紙の記録」(一九五七)などがあり、一九五八年には「謀反」で第三回東仁文学賞を受賞している。 張龍鶴(チャン・ヨンハク) 一九二一―一九九九。咸鏡北道の富寧(プリョン)に生まれる。一九四二年に早稲田大学商科に入学後、学徒兵として日本軍に入隊し、終戦と同時に帰国した。一九四七年に越南し、高校や大学で教鞭を取ったのち、一九六二年から『京郷新聞』『東亜日報』などの論説委員を務める。一九四八年の高校教師時代、処女作「肉囚」を脱稿し、一九四九年に『連合新聞』で「戯画」を発表。一九五〇年に短編「地動説」、一九五二年に短編「未練素描」で『文芸』誌の推薦を受けて文壇デビューした。その後、「死火山」(一九五一、発表は一九五四)、「無影塔」(一九五三)「復活未遂」(一九五四)「非人誕生」(一九五六―五七)「易性序説」(一九五八)「現代の野」(一九六〇)「円形の伝説」(一九六二)など多くの作品を発表した。一九五五年に『現代文学』で「ヨハネ詩集」を発表してから作家として注目を浴びはじめ、現代を生きる人間の条件という問題に集中的に取り組みはじめた。観念小説という新しい系譜を生み出し、朝鮮戦争を世代的自意識としてとらえ、その時代性を小説で表現しようとした作家として評価されている。 朴景利(パク・キョンニ) 一九二六―二〇〇八。慶尚南道生まれ。本名は朴今伊(パク・クミ)。一九四五年、晋州高等女学校を卒業してすぐに結婚し、娘を生む。一九五〇年師範大学を卒業し、中学校の教師になる。朝鮮戦争のさなかに夫を失い、五三年に再婚する。以降、幼少時代から大の読書好きだったこともあり、創作活動を始める。一九五五年に作家金東里の推薦で『現代文学』に短編「計算」を発表し、翌年の短編「黒黒白白」で本格的デビューとなる。五七年に発表した本書収録作品「不信時代」で第三回現代文学新人文学賞を受賞。その後、五九年まで短編小説を中心に執筆し、一九六〇年以降は主に長編小説を手掛ける。『金薬局の娘たち』(一九六二)、『市場と戦場』(一九六四)などがこの時期を代表する長編小説である。戦争によって夫を失った女性、歴史に翻弄される家族の姿を描き、読者の共感を得る。一九七〇年以降は大河小説『土地』(一九七三―九四)の執筆に集中し、二五年をかけて五部(全一六巻)にわたる長編大作を完成させた。日本植民地時代を経て解放に至るまでのほぼ一世紀にわたる、韓国の近・現代史のなかに生きる人々の群像劇ともいえる『土地』はベストセラーとなり、韓国の文学史に残る大作である。二〇〇三年に連載を始めた『土地』の続編ともいえる『蝶よ、青山へ行こう』は、作家が二〇〇八年に肺がんで亡くなったために未完成のままとなる。小説以外にも数多くのエッセイ集を残している。社会と現実への批判精神をもちながら、人間と生命に寄り添う、韓国の現代文学を代表する作家と評される。 呉永壽(オ・ヨンス) 一九一四―一九七九。 慶尚南道生まれ。号は月洲、晩年の号は蘭溪。大阪浪速中学卒業。東京の国民芸術学院を修了した後、慶南女子高校の教師となる。そのかたわら、文芸誌『白民』に「山の子」、「六月の朝」などの詩を発表して詩人としても活動する。一九四九年以降、短編小説「山葡萄」(一九五〇)などを発表して小説家に転身する。一九五五年、文芸誌『現代文学』の創刊に携わる。一五〇編以上の作品を残しているが、そのどれもが短編小説である。彼の作品世界は大きく三つに分けられるとされている。「ナミと飴屋」(一九四九)、「山葡萄」(のちに「ゴム靴」と改題)などは純真な子どもの世界を描き、「華山宅」(一九五二)、「明暗」(一九五八)などは現実を告発しながらも人情味あふれる作品といわれる。さらに「磯村」(一九五三)や「こだま」(一九五九)、「秋風嶺」(一九六七)では自然や故郷への郷愁の念が描かれている。いずれも人情味あふれる素朴で抒情的な作風が特徴で、温かみを感じさせるが、一方で歴史や社会に対する批判精神の欠如も指摘されている。一九七九年、肝臓がんのため永眠。 黄順元(ファン・スンウォン) 一九一五―二〇〇〇 。平安南道大同郡(テドングン)に生まれる。一九三四年に日本に渡り、就学。早稲田在学時に『三四文学』、『創作』、『断層』などで同人活動を行い、その頃から小説の執筆を始める。文学への入門自体は一九三一年に童謡と詩を発表したのが始まりで(「私の夢」、「息子よ、怖れるな」)、詩集『放歌』(一九三四)、『骨董品』(一九三六)を刊行している。同人時代以降は小説の執筆に専念するが、対象の属性を圧縮、省略を通じて表現するその文体的な特徴は、概して詩的文体と評されている。初期には成長小説的な色合いの濃い作品を多く発表しているが、後には時代の波にもまれ、苦しむ人々の人生を描いた作品を多く執筆した。それらの作品に登場する人物像は、厳しい状況に置かれながらもそれに屈せず、時に自らの破滅をも辞さぬ強靭な意志とプライドを備えているが、その内面には、抑圧的な世界への怒りとともに、それに対抗しきれていない自らへの自己反省的な怒りをも秘めていることが多い。早稲田大学文学部英文科を卒業してからは故郷に戻って文学活動をしていたが、解放後はソウルに移り、執筆活動とともに教職にも従事、慶熙大学では教授職に就いている。アジア自由文学賞(一九五五)、芸術院賞(一九六一)、三・一文学賞(一九六六)などの文学賞を多数受賞するとともに、韓国の韓国国民勲章柊柏章(一九七〇)、金冠文化勲章(二〇〇〇)を受章している。主な著作として、成長小説「夕立」(一九五三、映画化および日韓共同テレビドラマ化、韓国の教科書に掲載)、「星」(一九四一)、短編「雁」(一九五〇)、「甕を焼く老人」(一九五〇、一九六九に映画化)、長編「カインの後裔」(一九五三―五四)などがある。 【訳者プロフィール】 オ・ファスン(呉華順) 青山学院大学法学部卒業後、韓国の慶煕大学大学院国語国文科修士課程修了。「第1回新韓流文化コンテンツ翻訳コンテスト(ウェブコミック日本語部門)」優秀賞、「韓国文学翻訳新人賞(文化コンテンツ映画字幕日本語部門)」大賞受賞。著書『なぜなにコリア』(共同通信社)。訳書に『つかめ! 理科ダマン』シリーズ(マガジンハウス)、『準備していた心を使い果たしたので、今日はこのへんで』(扶桑社)、チョ・ヘジン『天使たちの都市』(新泉社)などがある。 カン・バンファ(姜芳華) 岡山県倉敷市生まれ。岡山商科大学法律学科、梨花女子大学通訳翻訳大学院卒、高麗大学文芸創作科博士課程修了。梨花女子大学通訳翻訳大学院、韓国文学翻訳院翻訳アカデミー日本語科、同院翻訳アトリエ日本語科などで教える。韓国文学翻訳院翻訳新人賞受賞。日訳書にチョン・ユジョン『七年の夜』、ピョン・ヘヨン『ホール』、ペク・スリン『惨憺たる光』『夏のヴィラ』(共に書肆侃侃房)、キム・チョヨプ『地球の果ての温室で』、チョン・ユジョン『種の起源』、チョン・ソンラン『千個の青』(共に早川書房)など。韓訳書に柳美里『JR上野駅公園口』、三島由紀夫『文章読本』(共訳)、児童書多数。共著に『일본어 번역 스킬(日本語翻訳スキル)』(넥서스 JAPANESE)がある。 小西直子(こにし・なおこ) 日韓通訳・翻訳者。静岡県三島市生まれ。立教大学文学部卒業。一九八〇年代中頃より独学で韓国語を学び、一九九四年に延世大学韓国語学堂に語学留学。その後、韓国外国語大学通訳翻訳大学院で日韓通訳・翻訳を学び、フリーランスの通訳・翻訳者として韓国で活動。現在は日本で日韓通訳・翻訳業に従事。訳書に、イ・ギホ『舎弟たちの世界史』(新泉社)、チャン・ガンミョン『我らが願いは戦争』(新泉社)、『七月七日』(東京創元社、共訳)、イ・ドゥオン『あの子はもういない』(文藝春秋)などがある。
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韓国文学の源流 短編選3 失花
¥2,640
著者 李箱(イ・サン)、李孝石(イ・ヒョソク)、蔡萬植(チェ・マンシク)、金南天(キム・ナムチョン)、李無影(イ・ムヨン)、池河蓮(チ・ハリョン) 翻訳 オ・ファスン、岡裕美、カン・バンファ 発行 書肆侃侃房 四六、上製、352ページ 定価:本体2,400円+税 ISBN978-4-86385-418-5 C0097 装幀 成原亜美 装画 松尾穂波 2019年6月にスタートした韓国文学の源流シリーズは今回、短編選をスタートします。朝鮮文学時代から今の韓国現代文学に続く、古典的作品から現代まで、その時代を代表する短編の名作をセレクトし、韓国文学の源流を俯瞰できるシリーズです。韓国文学に親しみ始めた読者が、遡って古い時代の文学も読めるようにしたいと考えています。各巻は6 ~ 10 編の各時代の主要作品を網羅し、小説が書かれた時代がわかるような解説とその時代の地図、文学史年表が入ります。よりいっそう、韓国文学に親しんでいただければ幸いです。 日本統治時代、戦争の影が色濃くなる中、 荒れ狂う時代の波に翻弄される主人公たちの 恋愛、家族、そして職場での人間模様……。 当時を代表する作家たちが綴る名作六編。 モダニズム作家、李箱の遺稿で、死後に発表された『失花』。 妻の死後、中国を旅し、華やかな都会の中の孤独をアイロニーをこめて描いた『ハルビン』。 日本にいられなくなり新しい生活を求めてやってきた澄子と、雑誌社に勤めながら小説を書く作家との愛の逃避行『冷凍魚』。 思想犯として投獄された男に本を差し入れ、一時釈放を待つ女を待ち受ける厳しい現実を描いた『経営』。 変わりゆく農村を舞台に土とだけ向き合って生き、すべてを失ったあと自らの命を絶つ父。帰郷し田んぼに出てはじめて父の思想にめざめる『土の奴隷』。 妻とその女友だちとの交流を通して男と女の不可解な感情とすれ違いを描いた『秋』。 【目次】 失花 실화 李箱(イ・サン/이상) 岡裕美 訳 ハルビン 哈爾濱 하얼빈 李孝石(イ・ヒョソク/이효석) オ・ファスン 訳 冷凍魚 냉 동 어 蔡萬植(チェ・マンシク/채만식) オ・ファスン 訳 経営 경 영 金南天(キム・ナムチョン/김남천) 岡裕美 訳 土の奴隷 続「第1課第1章」 흙의 노예 李無影(イ・ムヨン/이무영) カン・バンファ 訳 秋 가을 池河蓮(チ・ハリョン/지하련) カン・バンファ 訳 解説 渡辺直紀 文学史年表 著者プロフィール 訳者プロフィール 【著者プロフィール】 李箱(イ・サン) 一九一〇―一九三七 京城生まれの詩人、小説家。本名、金海卿(キムヘギョン)。京城高等工業学校を卒業し、朝鮮総督府建築課で技手として働くかたわら、三〇年に発表した長編小説『十二月十二日』で作家活動を開始した。三三年に朝鮮総督府を辞職して喫茶店の経営を始め、妓生の錦紅(クモン)と同居生活を送る。三四年には文学同人「九人会」に参加し、『朝鮮中央日報』に詩『烏瞰図』を連載するが、難解だとの抗議を受けて打ち切られた。三六年、『朝光』誌に掲載された短篇小説『つばさ』が一躍脚光を浴び、モダニズム作家としての地位を確立。同年、東京に渡る。三七年に思想犯として日本の警察に逮捕され、持病の肺結核が悪化して保釈された後、同年四月十七日に死去。東京で書かれた『失花』は、死後に遺稿として発表された。このほか代表作に『蜘蛛、豚に会う』『逢別記』などがある。 李孝石(イ・ヒョソク) 一九〇七―一九四二 江原道(カンウォンド)平昌郡(ピョンチャングン)珍富面(チンブミョン)に生まれる。号は可山(カサン)。京城第一高等普通学校を経て、一九三〇年京城帝国大学法学部英文学科を卒業。一九三一年日本の恩師の口利きで朝鮮総督府警務局検閲係に一時就職するも、良心の呵責と周囲の非難により一カ月足らずで退職する。その後は妻の実家のある、咸鏡北道(ハムギョンプット/現在の北朝鮮)鏡城(キョンソン)に移り鏡城農業学校で英語教師、後に平壌の崇実(スンシル)専門学校教授として赴任する。教員をしながら文筆活動を行っていたこともあり、経済的には比較的余裕があったとされる。高等普通学校在学中の一九二五年「毎日申報」の新春文芸に詩「春」が選外佳作となるが、大学在学中の一九二八年雑誌「朝鮮の光」に短編「都市と幽霊」を発表したのが正式な文壇デビュー。初期の作品は「露領近海」「上陸」「北國私信」など、傾向文学の色合いが濃く、同伴者作家とも言われていた。一九三二年以後、純粋文学の世界に傾倒していき、作品には「オリオンと林檎」(三二)、「豚」「雄鶏」(三三)などがある。一九三三年には「九人会」結成の発起人の一人となり、完全に純粋文学へと移行していく。三十代前半がもっとも執筆活動が盛んな時期で、短編「山」「野」「柘榴」「ひまわり」など、毎年十作以上の短編や散文を発表していた。特に短編「そばの花咲く頃」(三六)は自然と人間の心理を美しく描写した彼の代表作として現代まで広く読み継がれている。故郷や自然への郷愁をモチーフにした短編小説が多いなか、学生時代に読み耽ったチェーホフや英語教師として過ごした経験も影響し、モダンボーイや海外の近代文化を基盤にした作品や、不倫や痴情を描いた長編小説を執筆するなど、その作品世界は幅広い。長編の代表作には「花粉」(三九)「碧空無限」(四〇)などがある。一九四〇年妻に先立たれ、ほどなく幼い次男まで亡くすと、失意のうちに満州などを転々とする。そのころから体調を崩し、一九四二年脳膜炎を患い三五歳の若さで夭折する。 蔡萬植(チェ・マンシク) 一九〇二―一九五〇 全羅北道(チョルラプット)沃溝郡(オックグン)臨陂面(イムピミョン)に生まれる。号は白菱(ペンヌン)など。一九一四年臨陂普通学校卒業後、一九一八年に上京し、京城の中央高等普通学校に入学。在学中の二〇年に結婚し、二二年に卒業。同年、日本に渡り早稲田大学付属第一早稲田高等学院文科入学。だが二三年九月、関東大震災に遭い朝鮮に帰国、そのまま日本に戻ることはなく学籍は除籍となる。その後、私立学校の教員として勤務し、そのころから小説の執筆を始め、二五年には東亜日報社に入社し記者になるが、一年あまりで退社。その後も開闢社、朝鮮日報社などを転々とする傍ら文筆家として執筆活動を続ける。三六年以後は職につかず、創作活動に専念し、四五年郷里の臨陂に帰郷し五〇年に肺結核で永眠。小説家としては短編「新しい道へ」が「朝鮮文壇」三号(二四年)に掲載されて文壇デビュー。その後、数多くの短編、長編を執筆するが、小説の他、戯曲や評論、随筆などその作品は多岐に渡る。初期の作品は「消えゆく影」「貨物自動車」など、同伴者作家に近い。三四年に発表した短編「レディメイド人生」は風刺と諧謔の効いた作風が特徴で、この風刺と諧謔はその後の彼の小説に欠かせない要素となる。その代表作に短編「痴叔」(三八年)、長編には『濁流』(三七年)、「太平天下」(三八年)がある。四〇年以降、解放を迎えるまで、家族に起きた不幸や経済的困窮など現実的問題を抱え、しだいに親日的作風へと移行していく。長編『美しき夜明け』(四二年)、『女人戦記』(四四年)などがその代表である。四五年の解放後、「民族の罪人」(四八年)を発表して自らの親日行為を自己批判している。解放後の作品には短編「孟巡査」「ミスター方」「田んぼの話」(四六年)などがある。後に国家の歴史清算の過程で親日反民族行為と規定され親日作家のレッテルを貼られるが、激動期に数多くの作品を残し、量的にも質的にも韓国の近代文学を代表する作家の一人である点では異論がない。 金南天(キム・ナムチョン) 一九一一―一九五三? 平安南道(ピョンアンナムド)成川(ソンチョン)生まれの小説家、文学評論家。本名、金孝植(キムヒョシク)。二九年に平壌高等普通学校を卒業後、日本の法政大に入学。朝鮮プロレタリア芸術家同盟(KAPF)東京支部に加入し、会誌『無産者』の同人として活動した。三一年に帰国。同年、KAPFの一斉検挙により起訴され、実刑判決を言い渡された。出所後、服役中の経験を基にした短篇『水』(三三年)など、社会主義的リアリズムを追求した作品を発表。日本の植民地支配からの解放直後、「朝鮮文学建設本部」の結成において中心的役割を担い、四六年には「朝鮮プロレタリア文学同盟」と統合した「朝鮮文学家同盟」の発足を主導した。四七年ごろ北に渡り、最高人民会議代議員、朝鮮文学芸術総同盟の書記長などを務めたが、五三年ごろに粛清されたと伝えられている。代表作に長編小説『大河』、中編小説『麦』など。 李無影(イ・ムヨン) 一九〇八―一九六〇 忠清北道陰城(チュンチョンプクド・ウムソン)に生まれる。本名は李甲龍(イ・カビョン)。一九二五年、高校を中退して日本へ渡り、成城中学に入学後、加藤武雄の門下生となる。一九二九年の帰国後は教員や出版社の社員、雑誌社の記者などを経ながら執筆を続け、一九三一年に『東亜日報』の戯曲懸賞公募で「真昼に夢見る人々」が当選、一九三二年には『東亜日報』に中編「地軸を回す人々」を連載し、作家としての真価を発揮し始める。一九三三年、文芸誌『文学タイムズ』(のちの『朝鮮文学』)を創刊するかたわら、文学同人「九人会」会員として活動。一九三五年、東亜日報社学芸部の記者となるが、一九三九年には軍浦の近くにあった宮村(クンチョン)に移り、自ら農業に携わりながら農村小説を書く。彼の農民小説は大きく三つの時期に区分される。一九三二―一九三五年の第一期には貧困にあえぎ絶望する農民の姿を、一九三九年前後の第二期には逆境にも屈さず人間としての品位と生存意志を保ち続ける農民像を、一九五〇年以降の第三期には収奪と圧迫の歴史的受難を大河小説の形で描いた。主な作品に「明日の舗道」(一九三七)「第一課第一章」(一九三九)「土の奴隷」(一九四〇)『青瓦の家』(一九四二―一九四三、朝鮮芸術賞)『農民』(一九五〇)『農夫伝抄』(一九五六)などがある。 池河蓮(チ・ハリョン) 一九一二―未詳 慶尚南道居昌(キョンサンナムド・コチャン)に生まれる。本名は李現郁(イ・ヒョヌク)。一九四〇年、雑誌『文章』に「決別」を発表し作家となる。仁川(インチョン)にあった昭和女子高等学校卒。KAPF(朝鮮プロレタリア芸術家同盟)の指導者であった林和(イム・ファ)の妻としても知られる。一九四五年八月十五日の光復後は朝鮮文学家同盟に加担し、一九四七年に夫婦で越北するまでに多くの作品を発表した。主な作品に「決別」(一九四〇)「滞郷抄」「秋」(共に一九四一)「山道」(一九四二)「道程」(一九四六、朝鮮文学賞)「クァンナル(広津)」(一九四七)などがある。 【訳者プロフィール】 オ・ファスン(呉華順) 青山学院大学法学部卒業後、渡韓。慶煕大学国語国文科修士課程戯曲専攻修了。共同通信社発行『もっと知りたい!韓国テレビドラマ』の現地スタッフを経て、現在、韓国を拠点にフリーライター、通訳・翻訳者として活動中。著書『なぜなにコリア』(共同通信社)。訳書『旅立ち』(ソン・スンホン著)、共訳書『公式コンプリートブック 美男(イケメン)ですね』(キネマ旬報社)など。 岡裕美(おか・ひろみ) 同志社大学文学部、延世大学国語国文学科修士課程卒業。二〇一二年、第十一回韓国文学翻訳新人賞を受賞。訳書にキム・スム『ひとり』(三一書房)、イ・ジン『ギター・ブギー・シャッフル』(新泉社)、『李箱文学賞受賞作家による自伝的エッセイ集』(クオン、共訳)がある。 カン・バンファ(姜芳華) 岡山県倉敷市生まれ。岡山商科大学法律学科、梨花女子大学通訳翻訳大学院卒、高麗大学文芸創作科博士課程修了。梨花女子大学通訳翻訳大学院、漢陽女子大学日本語通翻訳科、韓国文学翻訳院翻訳アカデミー日本語科、同院翻訳アトリエ日本語科、ハンギョレ教育文化センターなどで教える。韓国文学翻訳院翻訳新人賞受賞。日訳書にチョン・ユジョン『七年の夜』(書肆侃侃房)、同『種の起源』(早川書房)、ピョン・ヘヨン『ホール』、ペク・スリン『惨憺たる光』(共に書肆侃侃房)、『私の生のアリバイ』(クオン)など。韓訳書に児童書多数。共著に『일본어 번역 스킬(日本語翻訳スキル)』(넥서스 JAPANESE)がある。 【韓国文学の源流シリーズ】 およそ100年前の朝鮮時代から始まり、近現代文学の主要作家の作品によって構成されるシリーズ。韓国現代文学のファンにとって、より深く、韓国の時の流れを俯瞰することができるはずです。
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韓国文学の源流 短編選2 1932-1938 オリオンと林檎
¥2,530
著者 朴花城(パク・ファソン)、李孝石(イ・ヒョソク)、金裕貞(キム・ユジョン)、李箕永(イ・ギヨン)、朴栄濬(パク・ヨンジュン)、朴泰遠(パク・テウォン)、玄徳(ヒョン・ドク)、李泰俊(イ・テジュン) 翻訳 イ・ソンファ、岡裕美、カン・バンファ、小西直子 発行 書肆侃侃房 四六、上製、272ページ 定価:本体2,300円+税 ISBN978-4-86385-472-7 C0097 装幀 成原亜美 装画 松尾穂波 日本植民地時代の1930年代韓国は、プロレタリア文学とモダニズム文学との相克の時代。揺れ動く時代を背景に、若い男女の交友関係を軸として、社会運動にのめり込んでゆかざるを得ない暗い時代が描かれる。実りのない恋愛を通して強く自立した生き方を模索する愛と葛藤の日々が、読むものの心に深く響いてくる。 下水道工事を巡り、日本人請負業者の賃金未払に怒りを爆発させる労働者たちの抵抗運動「下水道工事」。百貨店に勤める日本人女性ナオミと読書サークル仲間の恋の駆け引き「オリオンと林檎」。山間の村。ふとしたきっかけで住み込みで働くことになった若い女への期待と裏切り「山あいの旅人」。貧困から抜け出せない農民たちが賭博によって 仲間のわずかな財産を奪い合う「鼠火」。旱魃に苦しむ小作農と利己的な村の自作農との軋轢を描く「模範耕作生」。芳蘭荘という赤字続きのカフェを営む画家の満たされぬ日々「芳蘭荘の主」。体を壊して働けなくなった父と港でいかがわしい酒売りの仕事で稼ぐ母を持つ少年の成長期「草亀」。平壌を訪れた作家が目にした廃れゆく文化と哀しい人間模様を描く「浿江冷」。 【目次】 下水道工事 하수도공사 朴花城(パク・ファソン/박화성) イ・ソンファ 訳 オリオンと林檎 오리온과 능금 李孝石(イ・ヒョソク/이효석) 岡裕美 訳 山あいの旅人 산골 나그네 金裕貞(キム・ユジョン/김유정) イ・ソンファ 訳 鼠火 서화 李箕永(イ・ギヨン/이기영) 岡裕美 訳 模範耕作生 모범경작생 朴栄濬(パク・ヨンジュン/박영준) 小西直子 訳 芳蘭荘の主 방란장 주인 朴泰遠(パク・テウォン/박태원) 小西直子 訳 草亀 남생이 玄徳(ヒョン・ドク/현덕) カン・バンファ 訳 浿江冷 패강랭 李泰俊(イ・テジュン/이태준) カン・バンファ 訳 解説 渡辺直紀 文学史年表 <著者プロフィール> 朴花城(パク・ファソン) 一九〇四~一九八八 全羅南道木浦(チョルラナムド・モクポ)に生まれる。本名は朴景順(パク・キョンスン)、号は素影(ソヨン)。木浦にある貞明(チョンミョン)女学校を経てソウルの淑明(スンミョン)女子高等普通学校を卒業。忠清南道(チュンチョンナムド)の天安(チョナン)と牙山(アサン)、全羅南道の霊光(ヨングァン)中学校で教師生活を送る。一九二五年に李光洙(イ・グァンス)の推薦を受けて「秋夕前夜」で登壇を果たす。一九二六年、日本女子大学英文学部に入学するが、本格的に作家として執筆活動を始めたのは帰国後の一九三〇年代に入ってからだった。日本留学は朴花城の思想形成に大きな影響を与えた。一九三二年、「下水道工事」が李光洙によって「東光(トングァン)」に再び推薦され作家活動を再開。その年、女性作家初の新聞連載小説として「白花」が「東亜日報」に掲載された。その後も一九三八年まで作品活動を続け、「崩れた青年会館」(三四)、「洪水前後」(三四)、「旱鬼」(三五)、「プルガサリ」(三六)、「故郷なき人々」(三六)など二十編あまりの小説を発表する。彼女の作品には一貫して現実告発の傾向が強くにじみ出ており、富と貧困、地主と小作人、強者と弱者などの階級的対立関係の矛盾と、不条理に抗う民衆の姿を描き出しているという点で、社会性の強いリアリズム小説と評される。「重陽節」(三八)を最後に執筆を中断していたが、解放後の一九四六年、雑誌「民声(ミンソン)」に短編「春霞」を発表し執筆活動を再開した。大韓民国文化勲章、韓国文学賞、第一回芸術院賞を受賞。韓国文人協会理事、国際ペンクラブ韓国本部中央委員、韓国女流文人会初代会長を歴任した。生涯を通じて約二十編の長編小説、百編の短編小説、五百編の随筆と詩などの作品を残し八十四歳でこの世を去った。 李孝石(イ・ヒョソク) 一九〇七~一九四二 江原道平昌郡(カンウォンド・ピョンチャングン)に生まれる。号は可山(カサン)。京城第一高等普通学校を経て、一九三〇年京城帝国大学法文学部英文学科を卒業。一九三一年日本の恩師の口利きで朝鮮総督府警務局検閲係に一時就職するも、良心の呵責と周囲の非難により一カ月足らずで退職する。その後は妻の実家のある、咸鏡北道鏡城(ハムギョンプクド・キョンソン)に移り鏡城農業学校で英語教師、後に平壌の崇実(スンシル)専門学校教授として赴任する。教員をしながら文筆活動を行っていたこともあり、経済的には比較的余裕があったとされる。高等普通学校在学中の一九二五年「毎日申報」の新春文芸に詩「春」が選外佳作となるが、大学在学中の一九二八年雑誌「朝鮮の光」に短編「都市と幽霊」を発表したのが正式な文壇デビュー。初期の作品は「露領近海」(三一)「上陸」(三〇)「北國私信」(三〇)など、傾向文学の色合いが濃く、同伴者作家とも言われていた。一九三二年以後、純粋文学の世界に傾倒していき、作品には「オリオンと林檎」(三二)、「豚」「雄鶏」(三三)などがある。一九三三年には「九人会」結成の発起人の一人となり、完全に純粋文学へと移行していく。三十代前半がもっとも執筆活動が盛んな時期で、短編「山」(三六)「野」(三六)「石榴」(三六)など、毎年十作以上の短編や散文を発表していた。特に短編「そばの花咲く頃」(三六)は自然と人間の心理を美しく描写した彼の代表作として現代まで広く読み継がれている。故郷や自然への郷愁をモチーフにした短編小説が多いなか、学生時代に読み耽ったチェーホフや英語教師として過ごした経験も影響し、モダンボーイや海外の近代文化を基盤にした作品や、不倫や痴情を描いた長編小説を執筆するなど、その作品世界は幅広い。長編の代表作には「花粉」(三九)「碧空無限」(四〇)などがある。一九四〇年妻に先立たれ、ほどなく幼い次男まで亡くすと、失意のうちに満州などを転々とする。そのころから体調を崩し、一九四二年脳膜炎を患い三十五歳の若さで夭折する。 金裕貞(キム・ユジョン) 一九〇八~一九三七 江原道春川(カンウォンド・チュンチョン)出身。富農の家に二男六女の七番目として生まれるが、両親の死後、兄の放蕩により家産が傾き故郷を離れる。十二歳の頃にソウルの齊洞(チェドン)公立普通学校に入学、一九二九年に徽文(フィムン)高等普通学校を卒業、その翌年に延禧(ヨンヒ)専門学校(延世大学校の前身)と普成(ポソン)専門学校(高麗大学校の前身)に進むがいずれも中退。その後は故郷に戻り、農村の立ち遅れた環境を改善するために夜学校を開設し農村啓蒙運動を展開するなか、一九三三年に「山あいの旅人」、「チョンガーとカエル」を発表し登壇を果たす。一九三五年、「朝鮮日報」と 「朝鮮中央日報」の新春文芸に「夕立」と「ノダジ(富鉱脈)」がそれぞれ当選し一躍注目を浴びる小説家となった。同年、朝鮮の文学親睦会である「九人会」に入り、既存の会員だった李箱(イ・サン)と知り合い共に文壇活動を行う。登壇から二年間で「金を掘る豆畑」(三五)、「春・春」(三五)、「椿の花」(三六)、「タラジ」(三七)など、約三十編の小説と十編の随筆を発表。純朴な故郷の風景や、登場人物のありのままの生きざまを風刺とユーモアを交えて描きながら、物語の意外な展開やどんでん返しで笑いに昇華させるシニカルな作風を持ち味としている。生活に困窮した農民たちの姿や自身の経験に基づいた植民地期の冷徹な現実を見据えつつも、苦しい時代を生き抜くための愛と人間味を素材とした作品が多い。「椿の花」、「春・春」はそれぞれ韓国中・高等学校の国語の教科書に収録されている。一九三七年、京畿道(キョンギド)広州(クァンジュ)郡で肺結核のため二十九歳の短い生涯を終えた。 李箕永(イ・ギヨン) 一八九五~一九八四 忠清南道牙山(チュンチョンナムド・アサン)生まれ。号は民村(ミンチョン)。開化思想を持つ父は家庭を顧みず、貧しい少年時代を送った。一九二〇年代初めに渡日し、正則英語学校(現在の正則学園高校)に入学するも、関東大震災により学業を中断して朝鮮に戻ることを余儀なくされる。一九二四年、「兄の秘密の手紙」が「開闢」に掲載されて登壇。翌年、詩人・作家の趙明熙(チョ・ミョンヒ)の推薦で雑誌「朝鮮之光」に記者として就職するとともに、朝鮮プロレタリア芸術家同盟(KAPF)に参加した。KAPFの一斉検挙により三一年と三四年の二度拘束され、二度目の検挙では一年半にわたり投獄された。三三年に「朝鮮日報」に連載した中編「鼠火」、同年から三四年にかけて同紙に連載した長編「故郷」は、植民地朝鮮の農村問題を素材とし、貧困にあえぐ農民の暮らしを描いた作品として代表作に挙げられる。三五年にKAPFが解散すると、翌年には転向小説とされる「寂寞」を発表。三九年に朝鮮文人協会に発起人として参加し、親日的活動にも関与した。植民地時代末期には江原道内金剛(カンウォンド・ネグムガン)に疎開し、農作業を行いながら隠遁生活を送る。解放後は北に渡り、左翼作家として朝鮮文学芸術総同盟を率いた。その後も八四年に病没するまで芸術団体のトップを歴任した。長男の李平(イ・ピョン)は金正日(キム・ジョンイル)の最初の妻、成蕙琳(ソン・ヘリム)の前夫である。主な作品に「民村」(二七)、「開闢」(四六)、「蘇える大地」(四九)、「豆満江」(五四~六一)などがある。 朴栄濬(パク・ヨンジュン) 一九一一~一九七六 平安南道江西郡(ピョンアンナムド・カンソグン)に生まれる。号は晩牛(マヌ)、西嶺(ソリョン)。平壌の崇実(スンシル)中学校、光成(クァンソン)高等普通学校を経て延禧(ヨンヒ)専門学校文科に入学、一九三四年の卒業と同時に長編「一年」が「新東亜」、短編「模範耕作生」が「朝鮮日報」の新春文芸に当選し、文壇にデビューした。一九三五年に抗日グループが若者の左傾化を図ったとして検挙された「読書会事件」にかかわり五か月間拘留された後、満洲の吉林省に移住、教師生活を送るが、戦争が終わると帰国。京郷新聞社の文化部長、高麗文化社の編集長などを経て、陸軍本部の政訓監室に文官として勤務、従軍作家団の事務局長なども務めた。その後は漢陽大副教授などを経て延世大教授、後には文理科学部の学部長も務めている。三〇年代中頃の作品は、主に農村の貧困を素材とし、苦痛にあえぐ人々への人間主義的な愛をテーマとしたものだった。「一年」「模範耕作生」「父の夢」「綿の種を蒔くとき」(いずれも三四)といったその頃の作品には啓蒙や思想の色は感じられず、農民の実情や思いが描かれている。戦争が終わると小説の舞台を都市に移し、都市の小市民の生活を中心に人間の孤独や倫理問題を粘り強く追求するようになるが、それを通じて彼は、人間というのはもともと孤独な存在だが、そのことに絶望するのではなく、むしろ高揚した精神世界に昇華させてゆくべきという生への意志と姿勢を打ち出すとともに、物質・快楽主義に陥り、人間としての基本的な倫理意識さえもマヒしてしまった現代人の姿を暴いてもいる。その生涯を通じて彼は、前述の短編「綿の種を蒔くとき」(三六)をはじめとし、「風雪」(四七)、「龍草島近海」(五三)、「古壺」(五四)など多数の作品を生み出しているが、それらを通して窺える彼の文学的特性は、面白さや脱倫理的な感覚などに向かう文壇の流れにも揺らぐことなく一貫していた。人間としての誠実さや正直さを描くことによる「善良な人間像」の追求だ。 朴泰遠(パク・テウォン) 一九一〇~一九八六 筆名、号は泊太苑(パク・テウォン)、夢甫(モンボ)、仇甫(クボ)、丘甫(クボ)など多数。一九一〇年にソウルに生まれる。幼い頃から文学に強い興味を示し、李光洙、廉想渉、金東仁などの作品を通じて文学に傾倒してゆく。京城第一公立高等普通学校に在学中の一九二六年に詩「ヌニム(姉上)」が「朝鮮文壇」の佳作に入り、早くも文壇にその名を登場させる。三〇年に渡日し、法政大学の予科に入学するも中退。しかし留学時代に現代芸術全般にわたり幅広い見識を得る。初期には主に詩を書いていたが、のちに短編小説を書き始める。三三年には李泰俊の誘いで「九人会」に参加、その頃から文壇の注目を集めはじめ、中編「小説家仇甫氏の一日」(三四)などを発表、芸術派作家としての地位を確固たるものにしてゆく。特に一九三六年には、長編「川辺の風景」、全編がひとつの文章からなる「芳蘭荘の主」など、彼の代表作となる作品が多数発表された。特に当時の都市の様子を精密に描写した「川辺の風景」は、「リアリズム小説」、「世態小説」などと称され、話題を呼ぶ一方で、プロレタリア作家らから批判を受けるなど、文学界に論争を引き起こしもした。一九三九年以降は、主に自らの体験をモチーフにした小説や中国の歴史小説の翻訳などを発表していたが、一九五〇年の朝鮮戦争勃発を機に北に渡り、平壌文学大学で教鞭をとったりしながら主に歴史小説を執筆した。代表的なものとして「甲午農民戦争」(一~三部、七七~八六)があるが、これは北朝鮮で最高の歴史小説と評価されている。朴泰遠の初期の小説は文体や技法、テーマなどにおいてモダニズム小説の特徴を如実に示しており、作品のイデオロギーより文章の芸術性や人物の内面の描写を重んじている。こういった作品傾向から、韓国では友人である李箱とともに三十年代を代表するモダニズム作家とされている一方で、北朝鮮では歴史小説の大家と評価され、 七九年には国家勲章も受けている。 玄徳(ヒョン・ドク) 一九〇九~未詳 ソウル生まれ。本名は玄敬允(ヒョン・ギョンユン)。仁川(インチョン)の大阜(テブ)公立普通学校を中退し、中東学校速成科に一年通う。一九二五年、第一高等普通学校に入学するが、すぐに中退。一九二七年、「朝鮮日報」新春文芸童話部門に「月から落ちたウサギ」が一等入選し、一九三二年には童話「ゴムシン」が「東亜日報」で佳作を受賞。その後多くの童話を「少年朝鮮日報」などで発表した。一九三八年、「朝鮮日報」に「草亀」が当選し正式に文壇デビュー。裕福な家庭に生まれたが、最下層の生活を送った経験が作品に反映されている。彼の作品は大きく二つの部類に分けられる。一つ目は天真爛漫な子どもの目から農村共同体が瓦解していく様子を描いたもので、「草亀」(三八)、「驚蟄」(三八)、「ヒキガエルが食べたお金」(三八)などが挙げられる。どれも農村共同体が解体し、故郷を捨てて都市郊外に移り住んだ農民が没落していく様子を描くことで、日本統治下の社会的矛盾を描き出している。二つ目は無気力な知識人を主人公にして堕落した都市を描いたもので、「路地」(三九)、「群盲」(四〇)などが挙げられ、一九三〇年代後半の貧しく、奇形的で、退廃的なソウルをありありと描き出している。一九四六年に朝鮮文学家同盟に参加し、一九五〇年に越北。その後も作品を発表したが、一九六二年に粛清されたとされ、それ以降の行方はわかっていない。 李泰俊(イ・テジュン) 一九〇四~未詳 江原道鉄原(カンウォンド・チョルウォン)に生まれる。号は尚虚(サンホ)または尚虚堂主人(サンホダンチュイン)。幼少時代をウラジオストクで過ごし、父親が亡くなると故郷に戻って鳳鳴(ボンミョン)学校を卒業し徽文(ヒムン)高等学校に入るが、同盟休校の首謀者として退学処分となる。その後日本の上智大学予科に入学し、中退。一九二五年、「朝鮮文壇」に「五夢女」が入選し文壇デビュー。一九二九年から雑誌の編集にたずさわり、エッセーや少年読本を書く。一九三三年には朴泰遠、李孝石、鄭芝溶らと共に九人会を結成し、日本統治時代末期まで多くの作品を発表し続けた。一九四一年に第二回朝鮮芸術賞(受賞作不詳)、一九四六年に「解放前後」で第一回解放記念朝鮮文学賞を受賞。一九四六年七~八月頃に越北したとされるが、一九五六年に粛清されてからの行方は定かでない。九人会への参加により叙情性の強い作品を定着させ、一九三四年から「月夜」などの短編集を七冊、「思想の月夜」などの長編を一三冊出版。一九四五年光復以前の作品は、思想的なものより文章の妙味を生かした芸術至上的な色彩を帯びており、世情の繊細な描写や同情的な視線で物事を見つめる姿勢が、短編小説の芸術的完成度と深みをもたらせたという点で、韓国を代表する短編小説作家として評価されている。光復以降は朝鮮文学家同盟の核心メンバーとして活動する中、作品にも社会主義的な色彩をにじませようと努めた。 <訳者プロフィール> 小西直子(こにし・なおこ) 日韓通訳・翻訳者。静岡県三島市生まれ。立教大学文学部卒業。一九八〇年代中頃より独学で韓国語を学び、一九九四年、延世大学韓国語学堂に語学留学。以後、韓国在住。高麗大学教育大学院日本語教育科修士課程単位取得退学、韓国外国語大学通訳翻訳大学院韓日科修士課程修了。現在は韓国で通訳・翻訳業に従事。訳書に、イ・ギホ『舎弟たちの世界史』(新泉社)、イ・ドゥオン『あの子はもういない』(文藝春秋)、キム・ジュンヒョク『ゾンビたち』(論創社)、金学俊『独島研究』(共訳、論創社)がある。 イ・ソンファ(李聖和) 大阪生まれ。関西大学法学部卒業後、会社勤務を経て韓国へ渡り韓国外国語大学通訳翻訳大学院修士課程(韓日科・国際会議通訳専攻)修了。現在は企業内にて通訳・翻訳業務に従事。韓国文学翻訳院翻訳アカデミー特別課程・アトリエ課程修了。第二回「日本語で読みたい韓国の本翻訳コンクール」で最優秀賞受賞。訳書にペク・スリン『静かな事件』(クオン)、『わたしの心が傷つかないように』(日本実業出版社)などがある。 岡裕美(おか・ひろみ) 同志社大学文学部卒業、延世大学国語国文学科修士課程修了。二〇一二年、第十一回韓国文学翻訳院翻訳新人賞を受賞。訳書にキム・スム『ひとり』(三一書房)、イ・ジン『ギター・ブギー・シャッフル』(新泉社)、『僕は李箱から文学を学んだ』(クオン、共訳)、『韓国・朝鮮の美を読む』(野間秀樹・白永瑞編、クオン、共訳)などがある。 カン・バンファ(姜芳華) 岡山県倉敷市生まれ。岡山商科大学法律学科、梨花女子大学通訳翻訳大学院卒、高麗大学文芸創作科博士課程修了。梨花女子大学通訳翻訳大学院、漢陽女子大学日本語通翻訳科、韓国文学翻訳院翻訳アカデミー日本語科、同院翻訳アトリエ日本語科、ハンギョレ教育文化センターなどで教える。韓国文学翻訳院翻訳新人賞受賞。日訳書にチョン・ユジョン『七年の夜』(書肆侃侃房)、同『種の起源』(早川書房)、ピョン・ヘヨン『ホール』、ペク・スリン『惨憺たる光』(共に書肆侃侃房)、『私の生のアリバイ』(クオン)、チョン・ミジン『みんな知ってる、みんな知らない』(U-NEXT)など。韓訳書に児童書多数。共著に『일본어 번역 스킬(日本語翻訳スキル)』(넥서스 JAPANESE)がある。 【韓国文学の源流シリーズ】 2019年6月にスタートした韓国文学の源流シリーズは朝鮮文学時代から今の韓国現代文学に続く、古典的作品から現代まで、その時代を代表する短編の名作をセレクトし、韓国文学の源流を俯瞰できるシリーズです。 短編選2では1930年代の作品をご紹介します。戦中で食べるものにも事欠きながら志だけは高く持つ青春群像にふれてください。 各巻には小説が書かれた時代がわかるような解説とその時代の地図、簡単な文学史年表が入ります。よりいっそう、韓国文学に親しんでいただければ幸いです。
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VACANCES バカンス 3
¥1,500
特集 おばけ・リミックス リトルプレス 編集・発行:原航平+上垣内舜介 デザイン:岸田紘之 口絵(P1):村井秀 写真(P32,50,70,96):石垣星児 協力:もりみわこ 仕様:A5判 96ページ 発売日:2023年11月11日 インディペンデントな体制でつくっているカルチャー雑誌『VACANCES バカンス』の第3号。さまざまな要素を持つ「おばけ」をテーマに、取材や寄稿を通じて「おばけという存在の再編集を試みる」という意味合いでタイトルは「おばけ・リミックス」に。 編集部がいま気になる方や好きな方にご協力をお願いしました。わかりやすさや効率化のもとで排除されてしまうもの、存在しているのにいないことにされてしまうもの、日々の営みのなかでこぼれ落ちてしまう断片などに目を向けています。 ■Contents カバーイラスト|丹野杏香 【インタビュー】 曽我部恵一 池田彩乃(サンリスフィルム) 今泉力哉 【寄稿】 千葉ミドリ|マンガ 西村曜|短歌 背筋|小説 川浦慧|エッセイ 大前粟生|短歌
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野生のしっそう 障害、兄、そして人類学とともに|猪瀬浩平
¥2,640
SOLD OUT
発行 ミシマ社 定価 2,400 円+税 判型 四六判並製変形 頁数 304 ページ 発刊 2023年11月23日 ISBN 9784909394965 Cコード 0095 装丁 脇田あすか 知的障害があり自閉症者でもあるが、さまざまな鋭さをもった兄。障害がないとされているが、さまざまないびつさをもった弟(著者)。世間には、この兄と弟を切断する「ものの見方」があたりまえに存在する。 しかし、その分断をすり抜けてしまうある出来事が起こった。 2021年3月、コロナの感染拡大による緊急感が高まるなか、兄は突然しっそうする―― どこへ向かったのか? なぜしっそうしたのか? その道筋を辿りながら見えてきたのは、兄の「たたかわない」術だった。 外なる他者、遠くの他者を扱ってきた文化人類学に、あらたな道を拓く実践の書! 「障害とともにある人類学」から始まり、「内なる他者」を対象とした人類学へと展開する、あたらしい学問のあり方。 装画・挿画 岡田喜之 *** 内なる野生に麻酔をかけられた私たちと 感覚的に思考し、疾走する彼。 でも実はそのような対比さえ無意味であること 私たちの間にあるのは断絶ではなく連続であり 一人一人異なりながら、重なり合う存在であることを 思い出させてくれる一冊。 寺尾紗穂(音楽家・文筆家) *** 言葉の囲いを解き放ち、人間の理解しがたさに向き合う。 その語られることのない兄のふれる世界に、 私たちにとっての希望がある。 松村圭一郎(文化人類学者) *** 目次 はじめに しっそうのまえに 第一章 沈黙と声 たたかわないこと、しっそうすること/三月下旬 午前二時半に走り出す/現代の野蛮人・カタリナの構え/黙禱と叫び 1/黙禱と叫び 2 第二章 蜜柑のはしり ズレと折り合い/いくつかの死と/いくつもの死と/対面とリモート/夏みかんのしっそう/贈与のレッスン 第三章 世界を攪乱する、世界を構築する ボランティアのはじまり/満月とブルーインパルス、あるいはわたしたちのマツリについて/路線図の攪乱 1/路線図の攪乱 2/トレイン、トレイン 第四章 急ぎすぎた抱擁 父とヤギさん/眠る父/転倒の先/失踪/疾走/旋回としっそう/燕(つばくら)の神話 最終章 春と修羅 物語の終わりに むすびとして うさぎのように広い草原を 著者情報 著: 猪瀬浩平(イノセコウヘイ) 1978年埼玉県生まれ。明治学院大学教養教育センター教授。専門は文化人類学、ボランティア学。1999年の開園以来、見沼田んぼ福祉農園の活動に巻き込まれ、様々な役割を背負いながら今に至る。著書に、『むらと原発――窪川原発計画をもみ消した四万十の人びと』(農山漁村文化協会)、『分解者たち――見沼田んぼのほとりを生きる』(生活書院)、『ボランティアってなんだっけ?』(岩波ブックレット)などがある。
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本の栞にぶら下がる|斎藤真理子
¥1,980
発行 岩波書店 刊行日 2023/09/14 ISBN 9784000616102 Cコード 0095 体裁 四六 ・ 並製 ・ 212頁 定価 1,980円 『82年生まれ、キム・ジヨン』など、数々の話題作の翻訳を手がける著者が綴った、珠玉の読書エッセイ。文学に刻まれた朝鮮と日本の歴史をたどり、埋もれた詩人や作家に光を当て、人間が疫病や戦争に向き合ってきた経験をひもとくなど、韓国文学に止まらない古今の本を取り上げながら、その普遍性を今に開く25篇。 装画:高野文子